死体発見後の流れ (検視と検案)

今回は『ご遺体が発見されるとどういう流れになるのか?』というのを書いていきたいと思います。

"病院等で亡くなった患者さん"に関しては、主治医やかかりつけ医が死亡診断書を作成した上で火葬へと向かいます。

ですが、今回詳しく見ていくのは『それ以外のご遺体』の流れで、特に警察の視点からみた内容です。

実際に運用している警察等の方々の方がきっと詳しいと思うので、もし何か間違いに気づいた関係者の方はこっそり教えてください。



医療機関以外でご遺体が発見されますと、基本的にまず警察に通報がいきます。

そして通報を受け、警察官が現場に行き、その初動の段階で、ご遺体は①犯罪死体 ②変死体 ③非犯罪死体の3つのどれかに分けられると言われています。

これを"死体三分説"と呼びます。

いずれにしても、さらに状況を詳しく調べるため、検察官(実際には代行する警察官)が外表検査等を行っていくのですが、そのご遺体が上記3つのタイプのどれか?によって細かな点が違ってきます。


①犯罪死体:死亡が殺人等の犯罪によることが明らかなご遺体

この場合は、検察官・警察官による "検証"ないし"実況見分"を経てほぼすべてが司法解剖となります。

ちなみに、この"実況見分"とは刑事訴訟法第197条第1項に基づく任意処分(法の規定が不要な行為)です。

"検証"は刑事訴訟法第218条1項に基づいており、こちらは強制処分(法律の規定が必要な行為)です。


②変死体:死亡が犯罪に起因するか不明もしくは疑われるご遺体 (=変死者または変死の疑のある死体)

この場合では、刑事訴訟法第229条に基づいて"検視"(もしくは"司法検視"とも言う)を行い、犯罪関与の可能性を検討した上で、犯罪の関与が否定できない場合に司法解剖となります。

犯罪性がないと判断されれば、そもそも解剖されなかったり、場合によっては調査法解剖・行政解剖・承諾解剖などが行われるということになります。


③非犯罪死体:死亡が犯罪による死亡ではないことが明らかなご遺体 (※上記の2種を除いたもの)

この場合は、"死体調査"(もしくは"行政検視"とも言う)が行われます。
※かつては"死体見分"と呼ばれていました。

これは死因身元調査法第4条第2項に基づきます。

こちらの場合は端から犯罪は関与しないと判断されていますので、やはり解剖されなかったり、場合によって調査法解剖・行政解剖・承諾解剖などが行われる運びとなります。


つまり、検察官・警察官が行う外表検査等には、①検証・実況見分 ②検視(司法検視) ③死体調査(行政検視)の4つのタイプがあるということですね。

そして、犯罪が関与するかどうか?が判断され、関与が明らかもしくは疑われれば司法解剖が行われ、そうでなければ司法解剖以外になるかもしくは解剖はされない、という流れですね。



ただ言っておきたいのが、単に『検察官・警察官が行う外表検査等=すべて"検視"』ではないということです。

たまにさらっと検視に関して触れている記載にそういうものもありますが、正確にはそれは間違っています。

厳密には狭義の"検視"は『変死体に対する行為』のみを指します。

広義の意味だとしても、司法検視と行政検視を合わせたものですので、明らかに犯罪死体と判断されたものに対しては"検視"という言葉は使いません。



さて、"検視"に似たものに"検案"という言葉があります。

"検視"が検察官・警察官の行為に関連した言葉であったのに対して、"検案"は我々医師に関連した言葉になります。

"検案"については歯科医師には認められてはおらず、医師の独占業務と言えます。


ちなみに"検案"は、俗に"検死"や"検屍"とも言われ同じ事柄を指すこともありますが、正確には"検案"が正しく、我々も検案という名称を使っています。


検案という言葉自体は、医師法の第19条や第21条に出てきます。

ただ検案の具体的内容は記載されておらず、ある裁判の判決の中で、以下のように出てきます。

検案は医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することである。

またある教科書には

死体の外表検査とその既往歴などを検討したうえで、死因、死因の種類、死亡時刻、法医学的異状の有無などを判断することを検案という。

とも書かれています。


そしてこの"検案"にも2つのタイプがあります。

ひとつは『医療機関などに収容されているご遺体に対して行われるパターン』で基本的にそのまま異状がなければ警察は介在しません。

そしてもうひとつが『異状死体として届け出られたご遺体に対して、警察官が行う検視の補助として依頼されるパターン』で、こちらは警察を通して行うことになります。

どちらも"検案"と呼ばれますが、"検視"という言葉に比べるとそれほど区別されていない(する必要もない?)印象は受けます。



長々と書いてきましたが、"検視"と"検案"は大きく違いますよね。

試験にも出やすいと思うので、その違いだけでも覚えておいてはいかがでしょうか。