58歳の男性。発熱と意識障害のため救急車で搬入された。
現病歷: 昨日38.0℃の発熱があったため仕事を休み、市販の解熱鎮痛薬を内服して自宅で様子をみていた。今朝はベッドで横になったままで呼びかけに反応がなかったため、家族が救急車を要請した。
〜略〜
血液培養採取と同時に静脈路を確保し、輸液と抗菌薬投与を開始したが、血圧が低下した状態が続いている。
119C64
集中治療が継続されたが患者は入院4日目に死亡した。家族に病理解剖について説明したところ承諾され、実施することとなった。
正しいのはどれか。
a 解剖終了後は遺体を家族に返還する。
b 解剖に使用した器具は全て廃棄する。
c 解剖を実施したことを警察に届け出る。
d 解剖に関わった医療従事者は予防抗菌薬を内服する。
e 死亡診断書は病理解剖報告書が完成した後に発行する。
正答は[a]です。
[a] 正しい。当然ですが、解剖後はご遺体を遺族に返還することになります。
[b] 誤り。確かに、解剖後、ディスポーザブルの器具は感染性廃棄物として廃棄します。しかし、一部器具は滅菌処理等を行い、再度使用することもあります。
[c] 誤り。解剖実施の報告は警察に不要です。もし解剖を実施して、「犯罪と関係のある異状があると認めたとき」は警察への届け出る義務があります。
死体解剖保存法 第11条「死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関係のある異状があると認めたときは、二十四時間以内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければならない。」
[d] 誤り。解剖に関わった者への予防抗菌薬の投与が一般的な疾患は、現在のところありません。
[e] 誤り。病理解剖報告書の完成は、病理組織所見が出揃う数ヶ月後になります。従って、(そこまでご遺体をそのままにするわけにもいきませんし)、それまでに暫定の死亡診断書が発行されます。
この問題は、法医学には直接関係ありませんが、解剖に関連した問題となっています。
昨今のコロナ禍を念頭に置いた問題なのかも知れません。
ただし、一般常識的に考えても、そこまで難易度は高くないでしょう。
今般のコロナ感染症に関連して、[a]や[b]、[d]といった選択肢に迷った受験生も若干いたかも知れません。
コロナ禍真っ只中では、"納体袋での出棺"や"死後24時間以内の火葬"などの特別な対応をしていた頃もありましたが、5類移行後は基本的に通常時の対応と同じです。
[a]について言えば、コロナ禍であっても「ご遺体を遺族に返還しない」なんて対応はありませんし、あってはなりません。
従って、常識的に考えても「[a]が正答である」と殆どの受験生は答えられたと思います。
[b]の"使用器具の全廃棄"は、確かに、【プリオン病】などの特定の感染性疾患では、全ての使用機器は可能な限り焼却処分することが求められています。(※「プリオン病の剖検マニュアル」より)
ただ、本事例はプリオン病を匂わせる記載はありませんし、今回は全器具の廃棄までの対応が必ずしも必要であるとは考えなくともよいでしょう。
[d]に関しては、例えばインフルエンザウイルス感染症では、オセルタミビルなどの抗ウイルス薬に予防の薬効があったりします。(※抗菌薬ではない)
しかし、仮にご遺体がインフルエンザウイルスに感染していても、解剖関係者が予防薬を内服することはありませんし、解説の通り、そのような対応を要する疾患は現在のところありません
深く考えると、各選択肢で気になってしまいそうになるポイントは多少ありますが、[a]が明らかに正答なので、迷うことはなかったはずです。
119C47と同様、トレンディな問題が今流行っているのかも知れませんね。