さて、総論的な話が続きますが、そろそろ具体的な話も増やしていきたいと思っています。
今回は『実際に法医学者になるためにはどうすればよいのか?』
というのを、私の経験を元に書いていきたいと思います。
例のごとくあくまで"個人の感想"に過ぎない点は重々理解した上でお読みください。
まず『"法医学者"とはどういった人を指すのか?』というところだと思います。
「法医学者=法医学+学者」ということですので、文字を素直に読むと、法医学に関する学者、つまり『法医学者とは、法医学の専門知識を持つ者』と言えますね。
ですので、『"法医学者"という言葉は、医師(歯科医師)免許の有無を問わない』というのが厳密な意味だと個人的には理解しています。
しかし、世間一般的に"法医学者"といいますと『医師免許や歯科医師免許を持って死因究明に携わる人』をイメージされることが殆どと言っても過言ではありません。
ここはその場その場で話のニュアンスを考える必要がありますね。
そういったニュアンスの違いを避けるため、これらの免許を持つ法医学の人間をあえて"法医学医"や"法医"と区別して呼ぶ人もいます。
どちらが正しいか?の正解はおそらくありませんし、「自分が好きなように使えばいい」と私自身は思っています。
さて、私自身が医師免許を持つ法医学者なので、今回は『"法医学医"になるためにはどうすればよいか?』をメインに書いていきたいと思います。
なぜ法医学者に医師免許が要るのか?
法医解剖をするには法律上医師免許は必須ではなかったはずです。(参考記事:「死体解剖資格」)
それは、究極的には『死因究明には医学知識が必須だから』だと私は思っています。
また間接的な理由として「死体検案書を書くためには医師免許を持っていなければならない」というのもあるとは思います。
解剖補助(臓器を取り出すお手伝い)や解剖後の検査は臨床検査技師等が行うことも多いですが、それらを統括し各鑑定の責任を持つのが医師の役目です。
現に全国の法医学教室で解剖を含め主体的に活動しているのはやはり医師というのが実際のところだと思います。
医師免許を持った法医学者なろうと思うと、当然ですが、まず医師免許を取得する必要があります。
最低6年間、大学医学部医学科で勉強し、最終学年で待ち受ける医師国家試験に合格して医師免許を取得を目指しましょう。
その後、実際に大学の法医学教室等で専門知識を学んでいきます。
ただここで、少し分かれ道が出てきます。(参考記事:「法医学者に何年にかかるか?」)
理論上、法医学者となるには医師免許さえ取得すれば、それで法医学者になるための必要最低限の条件はクリアできると言えます。
解剖をするのにも死体検案書を書くのにも、医師としての臨床経験(実務経験)は必須ではありませんから。
なので最短で法医学を学ぼうと思えば、門を叩こうと考えている法医学教室の許可が出れば入門は可能かと思います。
しかし、近年は病院を経て解剖になるご遺体も多いです。
普段病院にかかっている人が亡くなることもありますし、その臨床経過を執刀医が理解できなければならないシーンも多々あります。
また昨今は死後画像検査(いわゆる"Ai")の頻度も増えてきています。
その画像検査結果をある程度診られるように...いう観点からも、医師免許取得後2年間の医師臨床研修が勧められるケースがとても多いです。(参考記事:「研修医制度」)
ですので、今の法医学者は2年間の臨床研修を経て、医師3年目から法医学教室にやってくる若手法医学者が殆どなのではないでしょうか。
そして実際に法医学教室で大学院生とし入学し、4年間学んで学位(博士)の取得します。
学位取得後は、全国にある大学法医学教室のスタッフ(教室員)として採用してもらって、法医学者としての道を歩んでいく、と。
こういった流れがオーソドックスですかね。
大学院生として勉強しつつ、同時並行教室員として採用されるというケースもあるようです。
臨床検査技師等の他の国家資格を持った方が法医学者になるのも、
学部生を終え
→免許を取得し
→大学院(修士)などを経て
→法医学教室の門をたたく
というのが一般的な流れのようです。
何にしても、本気で法医学者になることを考えるなら、きちんと医学部に入学してから、自分の大学の法医学教室や門を叩きたい法医学教室の教授等に相談するのが1番だと思いますよ。
そしてここから更に現実的な話になります。
『法医学者の現実』です。
やはり法医学者として食べていくにあたって、金銭的な問題は避けて通れません。
もし将来家庭を築いたりすることを考えても、この話は絶対に不可避ですから。
実際のところ『法医学者の金銭事情は厳しい』のが現状です。
大学院生の間は授業料も払わなければなりませんし、教員であっても臨床医の給料よりはるかに安くなります。(※参考ニュース記事)
そう考えると、医師としてのバイトが必要になってくることも往々にして考えられます。
そういった意味でも臨床研修を経て臨床医としての知識は持っているべきだと私自身は考えています。
あとは法医学教室のポストの問題です。(参考記事:「法医学者のポスト」)
大学院生はまだしも、教員のポストはかなり限られています。
『法医学は人手不足だからどんどん来てください』なんていう声も一部に聞かれますが、私自身はこの発言に少し違和感を感じています。
実際のところ、それも各法医学教室に依るんですよね。
もちろんマンパワーもポストもある法医学教室では、希望者がどんどん来ても対応できます。
しかし、そうではない教室では責任を持って希望者を受け入れられないというところがあるのも事実です。
『医局員をホイホイ入れるだけ入れて、入ったらその後はほったらかしにして、結局多くの医局員が辞めていった。』なんて話も臨床の方で耳にしたことがありますし、同じことが法医学教室でも起こり得ないとは言えません。
我々の業界に限った話ではありませんが、せっかく志を持って入ってきてくれた人には、こちらも誠意を持ってきちんと責任を取れる体制でありたい、そう思いますね。
法医学者は確かに大変なこともありますが、やりがいもあって素晴らしい職業だと私は感じています。(参考記事:「法医学のやりがい」)
後進のためにも、もっともっと法医学・法医学者の環境が良くなることを願うばかりです。