我々は『頚部を圧迫することによって亡くなったご遺体』を日常的にみます。
一言に「首を圧迫」といっても様々なパターンがあります。
具体的には縊頚・絞頚・扼頚です。
今回はこれら3つの違いについてみていきたいと思います。
ざっくりとは以下の通りです。
縊頚:体重による索状物の首締め (→首吊り)
絞頚:体重以外の力による索状物の首締め
扼頚:手や指による首締め
①縊頚 [いけい]
これはいわゆる"首吊り"を指す言葉です。
『頚部に巻き付けた索状物に自重をかけることで頚部を圧迫させること』です。
これで死亡した場合は"縊死"と呼ばれます。
日本では死刑の方法としても有名です。
縊頚をさらに2タイプに分けることがあります。
定型的縊頚:首に索状物が左右対称に掛かり、全体重をかかけ、後ろに吊っている状態
非定型的縊頚:定型的縊頚以外 (例. 紐が左右非対称、足が床に着いている...など)
後述しますが、首が締まって亡くなるには
・気道が締まる
・血管が締まる
の2通りの機序があるわけですが、気道は体重の15%以上、血管は体重の30%以上の力が掛かれば締まるのには十分と言われています。
ですので、個別判断にはなりますが、膝立ちやうつ伏せ、座っていても、上記の規定上の力さえかかれば理論上亡くなります。
事実は小説よりも奇なりと言いたくなるような縊死のご遺体も我々の元にはしばしばやって来られます。
②絞頚 [こうけい]
これは『首に巻いた索状物を体重以外の力で締め上げて頚部を圧迫させること』です。
よくドラマにあるような「他人が首に巻いた紐をを力いっぱい締め上げて殺した」という状況は"絞殺"とも呼び、多くが他殺によるものです。
この場合では、首に『苦しくて紐を解こうと引っ掻いた傷』を認めることがあり、これを"吉川線"と呼ぶ人もいます。
また絞頚には他殺が多いとはいえ、ある特殊な条件下で自分自身で首を締め上げて亡くなることも可能であり(これを"自絞死"と言います)、我々にこの判断を聞いてくることもあります。
③扼頚 [やっけい]
『手や指で直接頚部を圧迫させること』です。
こちらは基本的にすべてが他殺で、その場合は"扼殺"とも言われます。
考えると当たり前ですが、弱者が被害者となります。
指の痕がくっきり残っていることも少なくありません。
ちなみに首を吊るとなぜ亡くなるのでしょうか?
もしかしたら多くの人が『気道が閉まるから』と答えるかもしれません。
しかし、実際のところはそれだけではありません。
前述のように"血管の閉塞"も重要になってきます。
通常気道の閉塞から意識が無くなるまでは1分以上かかります。
(皆さんも1分程度息を止めることは可能だと思います)
しかし、血管の閉塞では10秒ほどで意識消失します。
(柔道の絞め技をイメージするとわかりやすい)
特に(定型的)縊頚の場合などでは、気道に加えかなりピンポイントに血管へ力がかかりますので、速やかに意識消失に至ります。
逆に絞頚や扼頚では、気道は閉まっても血管閉塞は不完全となることも多いので、意識消失まで時間がかかるとされます。
漠然と『〇〇したら亡くなる』と考えるのは簡単ですが、それがなぜ死に至るのか?を考えるのには医学知識が必須です。
ここに我々法医学者の需要があるのだと改めて感じます。