防御創と逡巡創

今回は"防御創"と"逡巡創"について書いていきたいと思います。

これらは自為/他為を判断する要素のひとつとして法医学上では重要です。



"防御創"とは、『他人に刃物で切りつけられそうになった際、顔面や頭部を守ろうして腕に主に手部や前腕部にできる切創(もしくは刺創)のこと』を言います。

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ただ創自体は通常の切創であり、創の形態に特異的な特徴があるわけでありません。

切創の場所や並び方等の情報から判断されます。


また一部の書籍には、以前触れた絞殺における"吉川線"も防御創の一種として記述されているものがあります。

この場合は"表皮剥脱"であり切創ではありません。


防御創の重要な意義は「ご遺体の防御創は他殺を疑う所見である」という点です。

これだけで短絡的に『防御創=他殺』と決めつけるのは危険ですが、確かに他殺を疑うきっかけとしては確かに有用かと思います。



逡巡創は"ためらい傷"とも言い、『手首や頚部などに認められる浅く複数平行に並んだ切創』です。

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切創によって自殺されたご遺体では、メインの創となる"主創"の周りにこの逡巡創が"副創"として認められます。

臨床で認める"リストカット"も、一種の逡巡創と言えるのかも知れません。

逡巡創は"自殺"を疑う所見として扱われますが、やはりそれだけで自殺と判断してしまう、言い換えると『他殺を否定してしまう』のは防御創の場合より危険と言えるのかも知れません。


今回のように、法医学ではやはり犯罪捜査の観点から重要とされる所見が多くあります。

しかし、逆にその解釈を一歩間違ってしまうと犯罪見逃しにも繋がりかねません。

法医学もまた責任の重い仕事です。