首吊りや溺死といった窒息の種類はありますが、果たしてその窒息がどれくらい経つと亡くなってしまうのか?
裏を返せば『どれくらいまでなら救えるか?』ということに繋がり、これは救急医学にも関係してくる話です。
教科書的には、『窒息死の全過程は【4-10分】で完成する』と言われます。
つまり早ければ窒息から4分で亡くなってしまいます。
(正確には「不可逆に呼吸が停止してしまう」)
その過程はいくつかのフェーズに分けられ、各段階で症状が違います。
窒息死に至る過程は大きく分けて4つあります。
①無症状期:20秒〜1.5分間
②呼吸困難期:1〜4分間
③無呼吸期:1〜2分間
④終末呼吸期:1分間
合計で全過程は大体【10分弱】というわけです。
これら各段階も含めて詳しくみていきましょう。
①無症状期(抵抗期):20秒〜1.5分間
こちらは窒息が起きた最初の段階です。
酸素供給は絶たれますが、体に貯蓄している酸素を使って活動します。
いわゆる意識的に息止めが可能な時期であり、これに関しては個人差が大きいです。
職業として海中に普段から長く潜る海女さんはこの時間が長いと言えます。
②呼吸困難期・痙攣期:1〜4分間
この段階では、いよいよ二酸化炭素が溜まってくることで呼吸中枢が刺激され、苦しくなります。
血圧は上昇し、酸素不足により意識の消失や痙攣が起きます。
また交感神経・副交感神経がともに刺激されることで、失禁や脱糞の他、勃起や射精等が認められることがあります。
③無呼吸期:1〜2分間
このフェーズまで来てしまうと、呼吸筋は弛緩し、呼吸と痙攣は停止します。
血圧も低下し、心臓が不整脈(心室細動)を起こします。
ここに至るまでに救命処置をする必要があります。
④終末呼吸期:1分間
最終フェーズです。
前の段階で一度呼吸運動は停止しますが、最後に深くゆっくりとした呼吸が出現します。
これは臨床でもしばしばみられる、死戦期呼吸・下顎呼吸・あえぎ呼吸と同じものであり、決して酸素を取り込む呼吸運動ではありません。
それも1分程度で止まり完全な呼吸停止となり、この段階以後は不可逆な呼吸停止です。
これは主に首吊りを始めとした窒息の過程として教科書には書かれています。
教科書によっては溺死による窒息は「息は吸えなくても吐ける」という特殊な状況だからか、①の段階が少し違って書かれていたりしますが、基本的には同じ経過をたどると思って問題ないと思います。
その他、溺死では『冷水によってさらに呼吸中枢が刺激される』という描写も見られます。
今回取り上げた過程は、呼吸運動をメインにしたものです。
心臓の拍動に関しては、窒息から数分〜20分は拍動が続くと言われます。
また同様に生存するために重要な臓器である"脳"は、臓器の中でも特に低酸素に弱く、早ければ3分程度の窒息状態で不可逆的な変化が出てくると言われます。
心臓が停止すると脳の酸素供給も絶たれることから、救命救急の現場では『心停止時間が5分を超えると救命が難しくなる』という話は有名なわけです。
『早ければ4分、長くても10分』
これをどう感じますか。
食べ物を詰めたりした際、「窒息が起きたらいかにすぐに救命を開始しなければならないか?」というのが理解できるかと思います。
皆さんも倒れている人を見つけたら、できる限りすぐに胸骨圧迫・心臓マッサージをしましょう。