フランク徴候 [Frank's sign] -耳たぶの皺と冠動脈疾患-

『耳たぶの皺が冠動脈疾患に関係している』

そういった説があります。

この耳たぶの皺のことを"フランク徴候"と呼ばれます。

今回はこのサインについて取り上げます。



フランク徴候[Frank's sign]:耳たぶ(耳垂)にできる皺のこと。特に耳珠切痕から出来た皺を指すことが多い。冠動脈疾患(≒心臓の動脈硬化)と関連が指摘されているが、まだまだ議論の余地がある。


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皺の程度によってグレードが4つに分けられます。(※ただし冠動脈疾患の重症度等とは関係なし)

グレード1:皺は細い線上である。
グレード2a:皺が浅い溝状になっている。
グレード2b:浅い溝状の皺が耳たぶの半分以上に及ぶ。
グレード3:皺が深い溝となっている。

記載によっては、耳珠切痕から出た皺以外も含めて"フランク徴候"とするものもあります。


詳しくみていきましょう。


この"フランク徴候"はその名の通り、1974年にこの徴候を報告した米国の呼吸器科医フランク先生の名前にちなんでいます。


前述のように、この「"耳たぶの皺"が"冠動脈疾患(≒心臓の動脈硬化)"と関係しているのではないか?」と言われています。

もっとわかりやすく書くと『耳たぶに皺がある人は冠動脈疾患リスクがある(≒冠動脈疾患になりやすい)』というわけですね。

しかし一方で「耳たぶの皺は単なる加齢性変化であり、冠動脈疾患とは関連はない」とする報告も多数あり、まだまだ議論の余地があります。



法医学ではで出会うご遺体は"心疾患"が死因であることがとても多いです。(参考記事:「法医学で最も多い死因」)

その心疾患の多くが"冠動脈疾患"といって、心臓を養う血管である"冠動脈"の動脈硬化によるものです。

臨床症状を伴う冠動脈疾患については、臨床現場では"心筋梗塞"や"狭心症"などと呼ばれます。


耳たぶは元々血管が少ない部位です。(→なのでピアスの穴を開けても出血しにくい)

つまり、もし動脈硬化によって血流が減った場合、耳たぶはその影響を受けやすいということです。

血流が乏しくなると耳たぶが酸素不足になり、その酸欠ストレスによって細胞がダメージを受けて皺ができるという説明がなされます。



『ご遺体の耳たぶを見るだけで冠動脈疾患が予想できるのか!?』

なんて言われると、法医学医(もしくは循環器内科医)なら誰でも飛びつきたくなることでしょう。

しかし、そうは問屋が卸しません。


この"フランク徴候"には反対意見も多く「単に加齢によって出現する変化に過ぎない」という主張もあるのです。

確かに、そもそも年齢を重ねると"動脈硬化"が誰にでも起こります。

そして、老化によって皮膚の水分低下すると、誰しも耳に限らず皺が出来ますよね。(高齢になると顔はヨボヨボになります)

従って「単に老化による影響を見ているに過ぎない」というわけです。

それを受けて『若年者で"フランク徴候"が認められる場合には意義がある』という意見もあったりします。


結局のところ、まだまだ議論の余地がある徴候と言えるでしょう。



以上、今回は"フランク徴候"でした。


かつて法医学では身体の中で起きている知るためには解剖するしかありませんでした。

そして、その解剖のハードルも今以上に高かったわけです。

そうなると現場の人間が「何とか解剖せず外観だけで分かることはないのか!?」と思うのは必然です。

"外観による所見"がいろいろと見つけられてきた背景にはそういった法医学者の苦労もあるんだと思います。


そうした中、近年は死後画像検査や死後血液検査などの新たなツールも出てきました。

心臓の動脈硬化なんかでも、解剖ではもちろん、現代では死後CTを使ってある程度容易く見つけられるようなりました。(それが死因かどうかは別にして)

外観所見だけによって身体の中を判断するには不明な点もやはり多いです。

現代に生きる我々法医学者は、新たなツールも駆使しつつ死因究明していく能力が求められている気がします。