第119回医師国家試験 C問題 問39 [119C39]

119C39
98歳の女性。家族から呼吸が止まったと往診依頼があった。5年前に脳梗塞を発症し、3年前から寝たきりとなり、訪問診療を受けている。本人の意向で積極的な治療は行わずに在宅看取りの方針であった。1か月前からほとんど食事が摂れなくなり、体重が減少してきた。2週間前から傾眠状態となり、ここ数日は体を揺すっても反応がなかった。本日未明に依頼があり、早朝に往診した。家族によると 4時間前に呼吸が止まったという。診察を行い、瞳孔散大、呼吸停止および心停止を確認した。背中にはわずかに死斑が出現し、顎関節には死後硬直が出現していた。身体に外傷はなく、るいそうと脱水所見を認めた。経過と死体所見から老衰による死亡と判断した。

死亡診断書の直接死因欄に記載するのはどれか。

a 老衰
b 心不全
c 脳梗塞
d 呼吸不全
e 不詳の死




正答は[a]です。


[a] 正しい。そもそも「老衰とによる死亡と判断した。」と文中に記載されています。老衰の原因になった疾病等(=原疾患)の記載はないため、直接死因には素直に【老衰】と書くのが正しいです。

[b, d] 誤り。"死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル"に、『疾患の終末期の状態としての「心不全」、「呼吸不全」等は記入しない』と記載されています。

shumatsuki.jpg

両者に先行する明らかな疾患の認められない今回のケースで記載してしまうと、"疾患(←ここでは老衰)の終末期"と考えられますので、心不全や呼吸不全の記載は不適です。文中の「呼吸停止/心停止」は、単なる"死の徴候"を示したものに過ぎません。

[c] 誤り。悩むとすれば、この選択肢でしょうが、【脳梗塞→老衰】の因果関係が、問題文からははっきり読み取れません。流石に脳梗塞を直接死因とするのは常識的に厳しいと思います。

[e] 誤り。これは問題文に「老衰とによる死亡と判断した。」と書いてあるので、あえて"不詳"とせず、きちんと死因は記載しましょう。



死亡診断書記載のルールに関する問題です。

厚生労働省の出す"死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル"には、こう書かれています。

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【死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。】

逆に言えば、「自然死と考えられる場合は、老衰と書いて良い」ということですね。


今回の問題の場合、5年前に脳梗塞を発症されています。

なので、「この"脳梗塞"をどう扱うか?」になってくるかと思います。

前述の解説のように、問題文を常識的に読めば、脳梗塞と老衰の因果関係ははっきりしませんので、普通に考えると、

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↑このように書く医師が殆どだと思いますし、私もそう思います。


百歩譲るなら、Ⅱ欄に脳梗塞を記載して、

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↑この書き方でしょうか。

やはり因果関係がはっきりしないので、↓下のように書くのは、個人的には少し言い過ぎな気がします。

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ちなみに、後2者で書くと、死因統計上は老衰ルール(※↓画像参照)もあるため、"脳梗塞"が死因として集計されます。

rousui-ICD-rule.jpg


受験生の中には「死因に老衰と書いてはいけない」と勘違いしている人もいたようですが、それは間違いです。

実際に診察・検案して、「死因は老衰だ」と判断したのなら、それを死因に書くことは全く可能です。

超高齢化社会で、これからこのようなケースも増えてくるでしょうから、しっかりとルールを学びましょう。



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