第89回医師国家試験 D問題 問5 [89D5]

89D5
68歳の男性.2年前から狭心症と診断され,診療所に通院していた.休日の午後,前腕部痛が持続したので往診を求めた.当直していた他院の医師が往診し,心電図の所見から急性心筋梗塞と診断した.直ちに入院することを勧めたが患者の承諾が得られなかったので,絶対安静を指示し,なるべく早い時期に入院するようさらに勧めておいた.翌朝,その当直医が再度往診をしたが患者は既に死亡しており,死亡原因を急性心筋梗塞と診断した.
死亡診断書の交付について当直医の対応で正しいのはどれか.

a 死亡診断書でなく死体検案書を交付する.
b 診療所長の許可を得る必要がある.
c 自ら交付する.
d 病理解剖が必要である.
e 所轄の警察署に届け出る.




正答は【c】です。


[a] 誤り。この事例では、最終的な死因である心筋梗塞を、当直医自ら生前に診療しています。「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」に該当するため、当直医は死体検案書ではなく死亡診断書を交付できます。

[b] 誤り。死亡診断書は診断医の責任の下、あくまでその医師名義で行われます。医療法人や診療所長・院長の許可を得る必要は原則ありません。

[c] 正しい。[b]の通り。医師法第20条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」とあるように、医師は自ら診察した上で(死亡)診断書を交付しなければなりません。

[d] 誤り。診断医の責任の下、患者の死因は"心筋梗塞"であると診断されており、必ずしも(病理)解剖の必要性はないと考えられます。

[e] 問題文からは「異状を認めた」等の記載はなく、必ずしも警察に届け出る必要はないと思われます。



今回は"D問題"ということで、単純な択一問題ではなく文章問題でした。

文章問題となってくると、やはり臨床に則した問題になって良いですね。


とは言え、聞かれていることはそこまで難しくはありません。

「死亡診断書か?死体検案書か?」等、基本的な知識があれば簡単に正答できたかと思います。


死亡診断書は、診断した医師が自分の名の下に自らが交付するものです。(死体検案書では、検案した医師が〜)

もちろん、診療器具や診察場所を借りているわけですから、常識的に一言断っておいても良いとは思いますが、原則として組織や上司の許可をわざわざ受ける必要はありません。

それだけ、死亡診断書・死体検案書の交付は医師自身に重く任されているのです。


また[d]の選択肢について、死因は"心筋梗塞"であると明らかに診断されていました。

しかし、死因は明らかでも、もし臨床経過などを踏まえて医学的検討・検証が必要となれば、遺族の承諾を得た上で病理解剖を行う可能性は残されています。

ですが、少なくとも問題文から「病理解剖が必要である」とにおわせる記載はなく、素直に考えて選択肢としては切りましょう。



89D5.jpg