間違いやすい医学用語として、"血栓症"と"塞栓症"があります。
やはり両者は大きく違います。
今回はこれについて書いていこうと思います。
【血栓症】 [embolism]:血栓が出来た状態のこと。血液や血流、内皮などの異常によって起きる。ex. アテローム性脳梗塞, 心筋梗塞...etc
【塞栓症】 [thrombosis]:出来た血栓が血流に乗り、他部位を閉塞すること。ex. 心原性脳梗塞, 肺塞栓...etc
詳しくみていきましょう。
【血栓症】
こちらは「血栓が出来るという病態」です。
脳血管や冠動脈に徐々に血栓が出来ていき、血管内腔を狭めてしまうことで血流不足となり臓器障害が起きます。
糖尿病や脂質異常症など血栓がより出来やすくなる病気が背景に潜んでいる場合があります。
【塞栓症】
"塞栓症"も、文字だけで考えると「血栓によって閉塞する」ということになり、"血栓症"の病態も含んだ概念に思えるかも知れませんが、そうではありません。
医学上は「他の部位で出来た血栓が飛んでくることによって閉塞する」という病態を指します。
従って、血栓は別の部位で形成されます。
"心臓"で出来た血栓が"脳"に飛ぶ → 心原性脳梗塞
"深部静脈"で出来た血栓が肺に飛ぶ → 肺塞栓(=肺動脈血栓塞栓症)
つまり「血栓→塞栓」は通常ですが、「塞栓→血栓」はあり得ません。
「塞栓症の前には必ずどこかで血栓症が起きている」と言えます。
以上、今回のテーマは「"血栓症"と"塞栓症"の違い」でした。
ちなみに同じように使われる言葉に"梗塞"というのがあります。
【梗塞】[infarction]:(閉塞の様式は何であれ)起きた閉塞によって細胞が障害されること。
ですので、前述の2語とはベクトルが少し違っています。
"血栓性梗塞"もあれば"塞栓性梗塞"もあるわけですね。
一般的な"心筋梗塞"は冠動脈内に血栓が形成されて梗塞を起こす"血栓性梗塞"です。
ところが、ごく稀に心臓内で出来た血栓が冠動脈を詰めることがありますが、この場合は同じ"心筋梗塞"でも"塞栓性梗塞"になります。
すごく細かい話なのですが、私自身はそれがすごく気になってしまうのです...。
法医学において、誤った言葉遣いは事実誤認に繋がっていまいます。
文書に記載して、場合によっては法廷で証言し、それが被告人の人生を左右してしまうことがあるわけですからね。
そういう意味でも、法医学者には正確な言葉の使い方が求められるのではないでしょうか。