『日本人の死因の不都合な事実』レビュー

2021年9月18日発売 WAVE出版 (出版社URL)

『新版 焼かれる前に語れ 日本人の死因の不都合な事実』 (著:岩瀬博太郎、柳原三佳)

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2007年の『焼かれる前に語れ』(小社)刊行から14年――。当時から多くの問題が露呈していた我が国の死因究明のあり方は、流れる月日とともに大きく改善されただろうか。
否、である。
国も警察も相変わらずこの問題から目を背け、ほとんど何もしないでいる。この間、我が国は東日本大震災という未曾有の災害にみまわれ、今は新型コロナウイルスという未知のウイルスの脅威にさらされている。国民一人ひとりが、否応なく「死」と向き合う日々を過ごしているのだ。
だがもし、その死因に信用が置けないとしたらあなたはどう思うだろうか。自身や身内、あるいはニュースで見聞きする事件や事故の遺体が、どのような扱いを受け、処理をされるのか知っているだろうか。
日本の変死体解剖率は、先進国の中でも最低レベルだ。コロナウイルスによって亡くなったのに因果関係の証明もなく違う死因にされているかもしれない。殺されたのに自殺とされているかもしれない。本当の死因は解剖しなければ永遠にわからないままだ。
医療先進国と言われる日本の驚くほどずさんで脆弱なシステムについて、生命保険や損害賠償、また類似事件の再発防止など私たちの生活に関連しうる身近な問題が数多く潜んでいることについてもっと知ってほしい。 腰の重い国や警察組織に正面から向き合い、改善を訴え続けている司法解剖医が、声なき死体と今を生きる日本人のためにもう一度強く警鐘を鳴らす! (※出版社サイトより)


この本を読了したので、感想を書いていきたいと思います。

ちなみに"新版"というタイトルにもあるように、2007年に発売された本をベースに、

・新型コロナウイルス関連
・乳幼児揺さぶられ症候群
・連続青酸殺人事件

などについて加筆・差し替えを行って再刊行されています。



一言で言うなら『現代における死因究明システムを忖度なくクリアカットに分かりやすく書かれた本』です。

ある程度法医学に詳しい方は、現在の法医学制度に多くの問題を抱えていること自体はご存知だと思いますが、この本は「その問題は何なのか?どこに原因があるのか?」が具体的かつ明確に描れており、それらの理解をより深めてくれることでしょう。


原稿はジャーナリスト・作家である方が執筆されているようなので、文章も一般の方に読みやすいものとなっています。

初めて読んで理解できないような専門用語もなく、対象読者もどちらかと言えば一般の方がメインだと思います。


それでいて、歯に衣着せぬこの法医学者の先生の言いっぷりは健在です。

私も普段、この本と同じようなことは日々思うこともある一方で、やはり実際に言葉にするのが憚れたりすることもあり、そういう意味ではここまではっきりと書いてくれているのはどこかスッキリとしますね。

こういった点は、同業の法医学者が読んでも興味深く感じると思いますね。


個人的には、[第8章:日本の「死因統計」は信用できるか]が興味深かったです。

著者が"エキセントリックな鑑定"と表現する、死体検案認定医の審査書類事例はとても衝撃的でした。


・法医解剖は社会における危険察知の手段である。
・法医学における縦割り行政の弊害。
・見た目(外観)のみによる判断の危険性。
・司法解剖になるのは見た目でそれとわかる外傷で死亡した死体ばかり。

こういった箇所等も大いに共感できました。


あえて気になるところを一点だけ挙げるなら【横浜市は2014年年度以降(2015年~)は監察医制度を廃止している】くらいですかね。

文章も平易で文量も多すぎず、一気に読み進めてしまいましたよ。

「法医学・死因究明システムの諸問題をより具体的に知りたい!」という方に是非手に取ってもらいたいですね。