111G35*
法医解剖開始時に撮影した背部の写真を次に示す.
紫赤色を呈する部分について正しいのはどれか.2つ選べ.
a 死の確徴である.
b 皮下出血である.
c 急死の場合には発現が弱い.
d 死後経過時間推定に利用される.
e 腹臥位で死亡したことを示している.
正答は【a, d】です。
[a] 正しい。背部に出現しているのは"死斑"です。死斑は早期死体現象であり、"死の確徴"のひとつです。
[b] 誤り。画像を見ると、接地していたと思われる部分には変色が認められません。「皮下出血は圧迫しても消退しない」ことから、これは"皮下出血"ではなく"死斑"の可能性の方が高いと言えます。
[c] 誤り。「急死の場合には死斑の出現は強い」ため、逆です。「急死では線溶系が亢進するから(死斑の発現が強い)」と言われています。
[d] 正しい。"死斑(の消退)"は死後経過時間の推定に利用されます。ただし"死斑の色調"や"死斑の強さ"などは死後経過時間の推定には利用できません。
[e] 誤り。重力効果によって血液が就下することで、死後に死斑が出現します。画像の死斑は背面に認められるため、腹臥位で死亡したことを示しません。
"死斑"に関する画像問題です。
画像中心の新傾向の問題ですね。
この問題の正答率はあまり高くありませんでした。
画像問題は「実際に見たことがあるか?どうか?」が大きな差になります。
ですので、文字面では"死斑"という言葉を知っている受験生が多かったと思いますが、
実際に"死斑"を見たことのある人は少なかったのかも知れません。
[b]の解説の通り、この背部に広がる紫赤色の変色は"死斑"です。
ぱっと見は"(皮下)出血"にも見えますが、圧迫部位に変色が出ていないため、これは"死斑"だと判断できます。
選択肢[a]の"死の確徴"とは、「死を確定させる(不可逆な)徴候」と考えてよいと思います。(※"死の三徴候"とはまた違った視点です)
要は「この徴候があるから死亡していると言えそうだ」ということです。
一般的には『死の確徴=死体現象』と考えることが多いです。
【死体現象】 → 死斑、死後硬直、角膜混濁、体温低下、腐敗・自家融解...など。
つまり、これらの所見を医師が認めると「"死亡している"と言えそうだ」ということになります。
個人的には、選択肢[d]がこの問題が割れ問となった原因のひとつだと思っています。
過去問を見ると、"死斑"と"死後経過時間の推定"の関係を聞いた問題が2つあります。
第93回医師国家試験 A問題 問44 [93A44]
死亡時刻を推定するのに役立つ所見はどれか.
a 死斑の色調 → 誤り(=有用でない)。
第96回医師国家試験 G問題 問75 [96G75]
死亡時刻の推定に有用でない死後変化はどれか.
b 死斑 → 正しい(=有用である)。
特に前者の第93回の問題で、単純に「死斑→死後経過時間推定には有用でない」と覚えてしまった医学生も多いのかな?とか思ったりします。
(第96回ではきちんと「死斑→死後経過時間の推定に有用である」と出題されていますが...)
細かいですが、単に"死斑"とだけ書いているのか?"死斑の色調"なのか?によって、意味合いが違ってくるということですね。
選択肢[e]も厳密に言えば微妙です。
と言うのも、「死亡時に腹臥位であっても、〜約5時間以内に仰臥位に体位変換すれば背部に死斑が移動する」からです。
ですので、『解剖時に背部に死斑があるからと言って、必ずしも死亡時に腹臥位でなかったとも言えない』わけです。
この点は"死斑の移動性"を詳しく勉強した受験生は迷ったと思いますよ。
以上から、この問題はやはり"割れ問になるべくしてなった"と私は思います。
画像から出発して死斑について問うのはすごく良問なのですが、残念ながら詰めが甘かったでしょうか...。