法医学者は画家である?

病理医と比べた法医学医の特徴として『外表所見を細かくみる』というのがあります。

確かにその通りで、法医学では「外表から観察される所見(表皮剥奪や皮下出血など)」をかなり重要視します。

それが外傷を示す重要な証拠になるからです。

ですので、擦り傷が身体中にたくさんある場合でも、一つ一つ番号を付けて所見を取っていくのです。


当然所見を取るだけで終わってはいけません。

それを"文書化"することが必要です。


最も簡単にイメージできるのが、その取った所見を文字に起こすことでしょう。

・どこのキズか?
・どのようなキズか?
・どんな色のキズか?
・周りのキズとの相互関係はどうか?
...etc

逐一文字情報で記録していきます。



「言葉で表現するより、絵に描いた方が早いじゃん」と思う人もいるかも知れません。

その通りなんです。

ですので、法医学医は人体図も用いてキズを描写します。

WholeBody.jpg

この↑画像は"正面"と"背面"だけですが、"左右側面"や"顔面拡大"、"頚部拡大"などの人体図も用いながら書いていきます。


ドラマなどではご遺体に一礼していきなりメスを走らせていますが、それは全くの間違いです。(あってもせいぜい所見を読み上げたり写真撮影くらいですかね)

実際はその前に人体図を用いたキズの記載を行っているのです。


とは言え、現実的にそこまで細かなキズを描写するはやはり難しいです。

だからこそ、先に挙げた細かなキズの性状などは文字情報で表現していくわけですね。

人体図を用いた描写はあくまでも"キズの位置関係"など全体を俯瞰して考える際に力を発揮してくると言えるでしょう。



ちなみに日常生活において私は全く絵心がありません...が、法医実務では"画家"というほど画力なんて必要は全くありません。

「自分の目で見たキズを描写する能力」さえあれば十分です。

もちろん『キズをみる能力』というのが大前提なので、それが最重要ですけどね。

どちらの能力も解剖を多く経験する中で自然とついてきます。

私のように絵心のない方も安心して法医学に足を踏み入れてきてください。笑