ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群 [Waterhouse-Friderichsen syndrome]

今回は法医学でも有名な疾患"ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群"について取り上げたいと思います。

"ウォーターハウス"と"フリーデリクセン"というのはこの病気を初めて報告したデンマークの先生方のお名前です。


「この疾患はどんな病気なのか?」を一言で表現するなら、、、

『ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群』[Waterhouse-Friderichsen syndrome]:髄膜炎菌等の感染に続発する"副腎出血"によって引き起こされる急性副腎不全。

こうなりますかね。


詳しく見ていきましょう。



まず"副腎"についてです。

"副腎"はまたの名を"腎上体"とも言います。

腎上体→"腎"臓の"上"にある臓器ということですね。

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※Wikimedia Commonsより


副腎は身体の様々なホルモンを分泌する臓器です。

1番有名なのが"副腎皮質ホルモン"ですかね。(いわゆる"ステロイド"です)

このような種々のホルモンを介して、全身の免疫やミネラルバランスなどを司っています。



"ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群"ではこの副腎機能が障害され急死してしまいます。

短時間で死に至るため、髄膜炎が主である場合には"電撃型髄膜炎"と呼ばれることもあります。

臨床でもなかなか救命まで到らないそうです。


この急性副腎不全(=副腎クリーゼ)の原因は"細菌感染"です。

特に原因菌としては"髄膜炎菌"が最も有名です。(ただ他にも肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などの報告あり)

これらの細菌が全身に回り、敗血症による凝固異常を起こしたり、細菌が壊れた際に出る毒素(エンドトキシン)によって両側の副腎に出血が起きてしまうのです。


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実際頻度としてはかなり稀で、その中でも若年者に多いとされます。

ですので、法医学で出会う機会もかなり珍しいです。


しかし、冒頭に書いたように、この"ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群"は法医学でもかなり有名です。

殆どの法医学の教科書に載っています。

それは何故なのか...?


この理由は『剖検時に"副腎出血"という目に見える形で観察されるから』だと私は思うんですよね。

私も1度だけ経験したことがあるのですが、この疾患では副腎の一部が出血するというより副腎全体が出血する(≒血が滲む)といった感じで、周りの脂肪に血が染み出しています。

なので、解剖の時点で明らかに「これは何かおかしい...」となるんですよ。

"副腎"は比較的小さい臓器ですし、元々解剖時に剖出する臓器の中でもどちらかと言えば存在感が薄い方です。

そんな副腎が"出血"という明らかに目に見える形で確認でき、そしてそれが一見見落とされがちな「重症細菌感染を示唆する」という重大性・意外性がこの病気を法医学で有名にしているのではないかと思っています。

どうなんでしょうか。


ちなみに髄膜炎菌は低温に弱いため、検体は常温保存が推奨されます。

従って、髄膜炎菌感染を疑った場合は冷蔵・常温の2種類で検体を保存した方が良いと思いますね。



さて、今回は"ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群"を取り上げました。

おそらく法医学者だけでなく臨床医であってもなかなか出会うことはないでしょう。

まして一般の方々には馴染みのない病気だと思うのですが、もし法医学の話の中で出てきたら思い出してみてほしいですね。