2022年4月14日発売 [2700円+税] 大和書房 (出版社URL)
『不自然な死因 イギリス法医学者が見てきた死と人生』四六判 全469頁 (著者:リチャード・シェパード、訳:長澤あかね)
世界中が絶賛!イギリス法医学者が体験した9.11、ダイアナ妃の死、その他犯罪や事故による様々な死体から見た、生きるということ
養老孟司氏が解説!
「ページをめくる手が止まらない! 」タイムズ紙
世界中が絶賛!63万部!!
9.11テロ事件、ダイアナ元妃の事故、バリ島テロ...その他、実際の犯罪や事故による様々な検死・解剖のほか、他殺に見える自殺遺体や、老衰と思われた毒殺事件など、ミステリー小説を超える究極のノンフィクションがついに上陸!(※出版社サイトより)
リチャード・シェパード
西ロンドンで生まれ、イングランド南東部の町ワトフォードで育つ。1977年、ロンドンの聖ジョージ大学医学部で医師資格を取得し、1987年、法病理学者としての卒後研修を修了。ガイズ病院・法医学部でキャリアをスタートさせた。以来、殺人事件から大規模災害に至るまで、国内外で数万件の不自然死の法医学的調査に携わる。ダイアナ妃の死をめぐる公開調査の法病理学者として、とくに有名である。国内外の大学や会議で専門的な講義を行う一方で、中等学校等での講演活動も行っている。ほかの著書に『Simpson's Forensic Medicine 12Ed』『The Seven Ages of Death』がある。趣味は養蜂と空を飛ぶこと。
30年以上もの間、英国で法医病理医として働く"リチャード・シェパード"先生の半生を綴った自叙伝です。
値段の割に文量も多く、だからこそ日本の法医学者の先生方が書いた本よりも細かな描写が印象的でした。
著者は小さいの頃、友達が持ってきた法医学の教科書を見て法医学に興味を持ったそうです。
そして、順調に医学生となり、病理医→法医病理医とキャリアを歩んでいます。
著者として海外のベストセラー本を書くくらいですから、当然エリート法医学者なわけですね。
ですが、その文章には「私はこんなに偉いんだぞ!」といった奢りや自慢はなく、むしろ法医学医としての"悩み"や"苦悩"が重厚に描かれています。
469頁というページ数を見てもわかるように、かなり文量としては多いですね。
だからこそ、先ほどの多くの"苦悩"が情緒的に描かれています。
特に個人的に強く共感されたのが、"法医鑑定に関する苦悩"でした。
ドラマや小説にあるような法医学者は、何でも自信満々で死因を断定しますが、実際はそんなかっこ良いものではないんですよね。
数多くある情報から死因にたどり着こうと毎回毎回悪戦苦闘です。
それでも警察や世間は鑑定結果にしか興味はありません。
法医学者がいろいろ悩んだところで「...で、結論は何?」といった風に。
それに加えて、遺族対応の困難さも書いてあって、、、
『こんな海外のエリート先生ですら、やっぱり悩むんだな!』というのは個人的にすごく興味深かったです。
また自身の結婚や子育てといったプライベートな問題についても触れています。
どうやら著者は"ワーカホリック"なところもあったようで、いろいろと法医実務に悩みつつもそれを楽しんでいる様子がありました。
しかし、いや、だからこそ、なかなか家庭との両立というのは困難を極めたようで、仕事だけではなく家庭における苦悩も随所に描かれています。
そして、もう一つ印象的だったのが、特に後半で"旧世代の法医学"と"次世代の法医学"にしばしば触れられている点でした。
著者はいわば"旧世代"の法医学を実践してきた法医学者です。
犯罪現場に自らが実際に赴き、警察とも協議し、真実を明らかにしていく...。
そして、DNA型鑑定といった"次世代"の技術が参入してきた変革期を経験します。
『時代は法医学者の"経験"から来る証言ではなく、証拠に基づく証言を求めるようになった』という旨の文はそれを如実に表しており、どこか著者のさみしさが読み取れましたね。
確かに年上の法医学者に昔の法医学の話を聞くと、本当にドラマや小説の主人公のような法医学者もいらっしゃったようですが、昨今はそこまで聞きませんよね。
これから法医学界もどんどん世代が新しくなっていきますから、もっとこういった傾向が進んでいき、法医学者には経験が必要なくなってしまうのが...なんて気が気でないですね。。
気になった点としては、海外の訳本にありがちですが、
・レトリックな文章でやや理解しにくい
・(海外では)有名とされる事件が日本人には馴染みがない
・帯に触れてある"9.11テロ事件"や"ダイアナ元妃事故"などはあくまでおまけ的な記載に留まる(34章あるうちの1章ずつ)
・養老孟司先生の解説はさらにおまけ的
といったところでしょうか。
もちろん法医学者の書いた本なので、法医学に関する知識を描いた箇所は前半を中心にちょこっとありますが、やはりそれはメインではありません。
あくまでも著者の"自叙伝"といった印象が強い本でした。
法医学者目線で「法医学とは何なのか?」というのが知れると思います。
海外の法医学者の本を読める機会は決して多くないと思いますので、是非一度手に取って読んでみていただきたいですね!