今回は、縊頚でよく認められるとされる"シモンの出血" [Simon's bleedings]について書いていきます。
そもそも縊頚[いけい]とは、簡単に言うと"首吊り"のことでした。(参考記事:「縊頚」)
縊頚は自他殺鑑別の観点からも、細かな所見も注意して観察する必要があります。
首吊りにおける所見として、イメージしやすいのはやはり"頚部の索痕"だと思います。
その他にも、
・顔面がうっ血する
・眼瞼結膜に溢血点が出る (参考記事:「溢血点」)
などは有名な縊頚(特に非定型)の所見です。
これらの所見は一般常識としても分かりやすい・繋がりやすいですよね。
一方で、今回取り上げる"シモンの出血"は、この所見の意義を知っていなければ見逃してしまう所見と言えると思います。
今回はそんな"シモンの出血"を詳しくみていきましょう。
【シモンの出血】:縊頚で認めることが多いとされる"腰椎椎間板"の出血のこと。
上図のように、椎間板腹側(前側)の前縦靱帯やその周囲の軟部組織に出血するのが典型例です。
発生機序としては、『首を吊った際に重力によって身体が下に引っ張られる(引き延ばされる)ことによって、背骨(特に腰椎)を栄養する血管が切れてしまい出血する』と言われています。
その他、死戦期(死ぬ間際)呼吸運動によっても出血することもあるみたいです。
従って、この出血は死後に起きるものではなく、"生活反応"と判断します。(参考記事:「生活反応」)
ちなみに、高齢者では背骨が硬くなっているので靱帯が引き延ばされれにくく、"シモンの出血"は起こりにくいとも言われていますね。
ちなみにちなみに、似たような"引き延ばし機序"によって内頚動脈内壁に亀裂が出来る"Amussat's sign"というのもあります。
上記の機序から、教科書的には「縊頚で認められやすい」とされています。
しかし、ある論文では『病死では確かに少ないが、縊頚以外の窒息症例にも広く認められる』という報告もされています。
『縊頚に特異的というわけではない』(≒シモンの出血があるからといって縊頚だとは限らない)と主張しているわけですね。
結局、解釈に難しい所見ということです。
何にしても、この所見の興味深い点は「"首を吊る"という状況なのに、首から離れた腰椎周囲に出血が出る」というところだと思います。
外力がかかった部位に所見を認めるのが一般的ですからね。
「紐による直接の外力がかかってはいない椎間板等が出血する」
これが法医学者にとっての落とし穴だと思います。
つまり、この所見のことを何も考えず解剖していれば、縊頚を見逃してしまう可能性があるということです。(前述のように、"シモンの出血"があるからといって必ず縊頚とは限りませんが)
解剖では気をつけなければいけません。
以上、今回は"シモンの出血"についてみてきました。
縊頚の所見の中でもかなりマイナーな所見なんですけどね。
それでも知っておいても損にはならないでしょう。
最後に、、、
日本語の教科書では[Simon]は"シモン"と記載されているのですが、個人的には「"サイモン"と呼ぶのではないか?」と思ったりしています。
英語に詳しい方は是非私に正解を教えてほしいですね。