2014年6月9日発売 [900円+税] 草思社 (出版社URL)
『法医昆虫学者の事件簿』 [原題:A FLY FOR THE PROSECUTION]
文庫版 全288頁 (著者:マディソン・リー・ゴフ、訳:垂水雄二)
死体に卵を産み付ける昆虫を分析し、驚くべき正確さで死亡時刻を推定する「法医昆虫学」。その第一人者が、殺人捜査におけるこのまったく新しい手法を紹介する。(※出版社サイトより)
虫たちは決して殺人事件を見逃さない。驚くべき早さで死体を発見し、卵を産みつける。真の第一発見者である昆虫から手がかりを得るために、死体につく虫を丹念に集める昆虫学者がいる。彼らは現場から採集された標本を分析し、捜査官をも驚愕させる確度で死亡時刻を推定する。時には死後数年たった白骨死体であっても、昆虫の証拠から犯行の時期を推定できるのである。普通の昆虫学者だった著者が殺人現場へと乗り込み、「法医昆虫学」の第一人者となるまでに経験した数々の捜査を例に、このまったく新しい捜査法を紹介する。『死体につく虫が犯人を告げる』単行本(小社刊)改題。
マディソン・リー・ゴフ
1944年生まれ。ハワイ大学マノア校昆虫学教授。ホノルル市・郡監察医局の法医昆虫学顧問も務める。新しい犯罪捜査法である法医昆虫学の草創期から研究にたずさわるほか、FBIアカデミーで法医昆虫学の訓練セッションを担当するなど、手法の普及にもつとめてきた。アメリカ法医昆虫学評議会の設立メンバーの一人。
今回は"法医昆虫学"(法昆虫学)をテーマとした本をご紹介します。
実はこの文庫本はかつて出版された本『死体につく虫が犯人を告げる』の改題本なのです。
表紙とタイトルが変わり、四六版→文庫版に変わっただけです。
『死体につく虫が犯人を告げる』の情報は下の通り。
2002年7月31日発売 [1800円+税] 草思社 (出版社URL)
『死体につく虫が犯人を告げる』 [原題:A FLY FOR THE PROSECUTION]
四六判 全240頁 (著者:マディソン・リー・ゴフ、訳:垂水雄二)
初めに出版されたのが2002年ということですので、結構古めの本です。
テーマは"法医昆虫学"(法昆虫学)ということですが、
三枝聖先生著作の『虫から死亡推定時刻はわかるのか? @2018年』を以前にご紹介しました。(→参考レビュー記事)
それよりも遙か15年以上も前に出版された本なのです。
そんなに前から本が出るくらい米国では法医学において"法昆虫学"が主要なテーマだったことを思うと「米国はさすが法昆虫学のメッカだな」と感じますね!
改題前の表紙の方が好みなのは私だけでしょうか。笑
改題後タイトルには"事件簿"とありますが、小説ではなく"随筆"です。
そういう意味でも、改題前のタイトルの方がマッチしている気がしますね。
内容は著者の自験例を中心に書かれており、アカデミックか具体的な記載も結構多いです。
様々なハエの固有名詞もたくさん出てくるので、やや難解な印象を受けました。
しかし、日本において(おそらく)初めて本格的に"法医昆虫学"を扱った本でありますし、大変興味深く読めました。
私のようなにわか者からすると『ウジの体長や成長過程から産み付けられた時期を逆算する』なんて単純に考えがちですが、全くそうではありません。
・どの種のウジか?
・どの部位にいたウジか?
・遺体はどのような状況にあったのか?
・その時期の気温は?
・その時期の天気は?
・死因は何か?
著者はこういったこともきっちり考慮されているんですよね。
例えば「どの種のウジか?」においては、"ウジ"と一括りに言ってしまうのでなく、
きちんと実際に採取したウジを恒温器でハエまで成長させ、ハエの種類を確定させます。
また一部のウジは固定した後に「どの段階のウジか?」を正確に特定します。
その上で、"積算時度(ADH)"や"積算日度(ADD)"を算出し、死亡時刻を推定していきます。
何よりも驚いたのが、『法医昆虫学は"ハエ"だけではない』ということです。
もちろん"ハエ"は死後かなり早期(数分)にご遺体に寄ってきます。
しかし、昆虫はそれだけではありません。
著者曰わく、法医学に関係する虫は4グループいるそうです。
① 死肉食の種→ニクバエ、クロバエ
② ①(死肉食の種)を捕食・寄生する種→シデムシ、エンマムシ、ハネカクシなど
③ 死肉も、そこに集まる①や②も餌食する→アリ、ハチなど
④ 死体を普段の生活環境の延長上として利用する→クモ、ダニ、トビムシなど
これらの虫達が腐敗の程度に合わせて順々にダイナミックに集まってきます。
決して"ハエ"だけから判断するのではなく、集まってくる数多くの虫の状態から推定していくのですね。
驚くのが、著者はこれらの虫の実データを幅広く集めていることです。
著者のいるハワイの各所に腐敗の過程やそこに集まる虫を調べるための"拠点"を構え、そこにヒトの死後過程に似ている"ブタ"を用いて、様々なデータを集めているようです。
これらの実験が想像する以上に大規模、かつ科学的に行われており、だからこそ著者は"法医昆虫学"の第一人者になり得たのでしょう。
下画像のような"ベルレーゼ漏斗"なる装置を使ったりして、土中の小さな虫まで分析するようです。
※Wikipediaより
日本ではなかなかここまでしている法医学者はいないでしょうね、、、本当に尊敬しかありません。
"法医昆虫学"はとても興味深いですね。
年間で気温がある程度均一なハワイに比べ、四季もある日本では気温や湿度の変動も大きいため、そういった難しさはあるとは思いますが、
だからこそ、その多様な昆虫の足取りを知ることができれば、かなり強力なツールになることは間違いありません。
確かに、訳本であったり、様々な虫の名前が出てきたりするので、若干の読みにくさは否めません。
しかし、興味のある方は是非読んで、その興味をさらに深めてほしいですね!