歯髄腔の狭窄度による年齢推定(藤本の分類)

以前、歯の咬耗度による年齢推定について書きました。(参考記事:「咬耗度による年齢推定」)

こちらは『年齢を重ねるにつれてすり減る歯から逆算的に年齢を推定する』というものでした。

実はそれ以外も歯の所見による年齢推定の方法があります。

それが今回ご紹介する"歯髄腔の狭窄度"です。

こちらも加齢性変化を逆手にとった年齢推定の手法です。

早速みていきましょう。



【歯髄腔の狭窄度による年齢推定(藤本の分類)】

全ての歯がA型 → 10代
犬歯のみA型、他はB型 → 20代
上顎小臼歯、下顎第一大臼歯はC型 他はB型 → 30代
全ての歯がC型 → 40代
全ての歯がD型 → 50代以上〜


言葉だけではわかりづらいので、図を用いながら詳しくみていきます。



pulp.jpg

まずこの"歯髄"とは歯の神経を指します。

そしてその"歯髄"や血管が存在する空間を"歯髄腔"と言います。


年齢とともに周りの象牙質が増えてくることで、この内側の"歯髄腔"は狭まってきます。

この"歯髄腔"の比率を考えることで、年齢推定を行おうというわけです。

ちなみにこの"歯髄"の細胞は、周りの硬い組織に守られているため比較的保存性が良く、しばしばDNA型判定の試料として使われることもありますね。



この歯髄腔の全体像を肉眼的に観察することは不可能です。

そのため観察にはレントゲン等の装置を使う必要があります。

その上で、歯全体の中で歯髄腔の占める割合をみています。


今回の"藤本の分類"ではA〜D型という4類型を用います。

A型(正常型):歯髄(腔)は歯の外形に一致する。
B型(軽度退縮型):髄角消失し、髄室天蓋の一部退行、根管根尖部が狭窄する。
C型(中等度退縮型):髄室天蓋は著しく退行し、根管半部が狭窄する。
D型(強度退縮型):髄室全体が縮小し、根管全長にわたる狭窄による1本の棒状髄腔となる。


模式図にすると以下のようになります。

fujimoto.jpg


前述のように、要は『年齢と共に歯髄の比率が減ってくる』ということですね。

ただこの"傾向"を言うは易しですが、逆にここから年齢を推定しようと思うとやはり実際は難しです。



この分類法は今から50年以上前の1958年に藤本先生によって発表されたものです。

かなり古くからある分類なのですが、未だに法医学の一部教科書には載っています。

それをそのまま現代の事例に適用するのは個人的にはやや躊躇してしまいます。


近年はCT検査もあり、それで輪切りの断層画像や3D構築・ボリュームレンダリングもできます。

なので、もっと現代に合うより正確な基準が作れそうですけどね。

ちらほらと関連論文は見かけますが、現時点では教科書に載るほど落とし込むには至っていないようですね。



ということで、今回は"歯髄腔の狭窄度を用いた年齢推定(藤本の分類)"をご紹介しました。

肉眼的に判断できる"咬耗度"に比べると、歯髄腔はレントゲン等の画像検査が必要になるのは手軽さという意味ではひとつネックとなります。

この手法を実際の症例に使っているのは、私は学会発表や論文でしか見たことがありません。(私自身も実際に使った経験はなし)

「○○例集めて分類したらこの結果でした」というのと、「(その分類を使って)年齢を推定したら●歳代と出ました」というのは少し捉え方が違うかも知れません。


"年齢推定"は現代でも重要なテーマのひとつです。

そのため、新しい技術を駆使していろんな法医学者がより正確な年齢推定法を編み出そうと日々努力しています。

新たな推定法が教科書に載るのもそう遠くないのかも知れませんね。