頭蓋骨縫合の癒合状態による年齢推定

頭蓋骨が単独で見つかった際、その年齢推定はどうすれば良いでしょうか?

上顎骨や下顎骨があれば、その咬耗度を観察することである程度年齢を絞れる可能性もあります。(参考記事:「咬耗度による年齢推定」)

またレントゲンやCTがあれば歯髄腔による年齢推定ができるかも知れません。(参考記事:「歯髄腔の狭窄度による年齢推定」)


しかし、時に歯が抜け落ちてしまっていたり、そもそも下顎骨が無かったりすることもしばしば経験されます。

そうなってくると上記ような歯を用いる年齢推定法を適用することが難しくなります。

そこで出てくるのが"頭蓋骨の縫合を用いた年齢推定法"です。

今回はこの"頭蓋骨縫合の癒合状態による年齢推定"をご紹介していきます。



【頭蓋骨縫合の癒合状態を用いた年齢推定】

主に下記の3つの手法があります。

①"頭蓋冠縫合を用いた手法"
②"口蓋部骨縫合を用いた手法"
③"蝶前頭縫合を用いた手法"

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※推定年齢はあくまでも"目安"です。


具体的にみていきます。



頭蓋骨はいくつもの骨が組み合わさって出来ています。(医学生の頃、必死に覚えたことでしょう)

この骨の継ぎ目(=縫合)は年齢とともに徐々にくっついていき、最終的に消えてしまうのです。

もっと具体的に言うと「高齢になるほど縫合は消失していく」ということですね。

そこで、この"縫合の癒合状態"を年齢推定を利用するわけです。


前述のように頭蓋骨はいろいろな骨があり、縫合もたくさんあるのですが、年齢推定に主に使用されるのが、これからご紹介する①"頭蓋冠の縫合" ②"口蓋部骨の縫合" ③"蝶前頭縫合"の3つです。



①頭蓋冠縫合の癒合

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頭蓋冠の縫合はいくつかの縫合の総称です。

その中でも、年齢推定に使用されるのは以下の3つです。

・冠状縫合
・矢状縫合
・ラムダ縫合


画像は頭蓋骨の外側(→外板)の縫合を示していますが、本来は内側からみた(内板の)縫合の方が信頼度が高いと言われています。

ただしこの頭蓋冠縫合の程度は、個人差が比較的大きく、そもそもの信頼度はあまり高くはありません。

全体の縫合をみて、ざっくりと「年齢が若い」「高齢者っぽい」くらいの認識の方が安全です。



②口蓋部骨の癒合

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"口蓋部"とは歯の裏・舌の上の部分を指します。

口蓋部の縫合もいくつかあるのですが、年齢推定に用いられるのは下の3つです。

・切歯縫合
・正中口蓋縫合 上顎部/口蓋部
・横口蓋縫合

口蓋部骨の縫合は、先ほどの①頭蓋冠縫合よりは幾分か"マシ"です。

特に"切歯縫合"は20代で縫合の癒合・消失が始まるため、完全に縫合が消失していれば「30歳は超えていそうだな」と判断できますかね。

他の縫合ではなかなか判断に難しいことがあります。



③蝶前頭縫合の癒合

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"蝶前頭縫合"は蝶形骨と前頭骨が接する部分の縫合を指し、この眼窩(目の窪み)にある縫合が年齢推定に用いられます。

教科書によっては触れていないこともあり、マイナーな印象が私にはあります。

教科書的には「蝶前頭縫合は50歳以上で消失する」ということなので、その年齢付近の推定で使用されるようですね。



以上、今回は3箇所8種類の"頭蓋骨縫合の癒合状態による年齢推定"をみてきました。

とは言え、この骨縫合の癒合程度を利用した推定法も、やはり個人差によってかなり前後することはあります。

今回ご紹介した"推定年齢の目安"についても、教科書によって違っていたりします。

ですので、この推定年齢を絶対視するのではなく、あくまで参考年齢として捉えるに留めるべきだと個人的には思います。