"クラッシュシンドローム"という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
日本では阪神淡路大震災の被災者の死因として注目されました。
"挫滅症候群"(または"圧挫症候群")とも呼ばれ、救急ドラマでも度々取り上げられる疾患です。
今回はこの"挫滅症候群"を取り上げたいと思います。
【挫滅症候群】:挫滅や圧挫などによって横紋筋融解が起き、その後に圧迫が解除されることによって引き起こされる全身性の再灌流傷害のこと。不整脈が直接死因となることが多い。
詳しくみていきましょう。
前述のように、この"挫滅症候群"は阪神淡路大震災で有名になりました。
「地震で倒壊した家屋の下敷きとなった被災者が、救助された後に突然死した」というエピソードはドラマでもよく取り上げられます。
その他、交通事故で車両や列車に挟まれた事例などで発生することがあります。
この"挫滅症候群"を端的に言うと「挫滅損傷による外傷性横紋筋融解が起因した全身性再灌流傷害」と言えます。
挫滅・圧挫が起きると、その先の細胞に酸素が届かなくなり、虚血性壊死が起こります。
その後、圧迫が解除されると、途絶えていた血流が再び全身を循環し始めます。
ところが、その間に傷害を受けて壊死した細胞からいろいろな成分が漏れ出てしまい、その細胞成分が血流に乗って全身を巡ってしまうのです。
この時に血液に漏れ出る細胞成分の一例が下記の物質です。
・カリウム
・ミオグロビン ※ "ポートワイン尿"が有名
・乳酸
・クレアチンキナーゼ
・リン
・クレアチニン
高カリウム血症は不整脈を引き起こします。
高ミオグロビン血症は急性腎不全を引き起こします。
(そして、急性腎不全はまた高カリウム血症を引き起こす)
高乳酸血症は、乳酸アシドーシスを引き起こし、これも不整脈を引き起こします。
また傷害を受けた筋細胞に血中のカルシウムが沈着することで、低カルシウム血症が起きます。
低カルシウム血症も高カリウム血症同様に不整脈を引き起こします。
このように様々な要因によって不整脈が引き起こされ、圧迫解除後に突然死してしまうのです。
圧迫の時間は数時間程度、早ければ1時間程度の圧迫であっても突然死する可能性があるとされます。
挫滅症候群を起こした圧迫部位の多くが四肢であり、特に筋量の多い下肢の圧挫が7割を占めます。
従って、広範な挫滅が認められたり、長時間圧挫→圧迫解除後の突然死など状況では"挫滅症候群"を疑う必要があります。
このあたりは救急医の先生の方が詳しいかも知れませんね。
以上、今回は"挫滅症候群"を取り上げました。
我々法医学者は"死因として"挫滅症候群を考えますが、逆に臨床医の先生方にとっては「それを防ぐことが救命に繋がる」という見方もできると思います。
法医学の知識も決して臨床から遠いところにあるわけではないと改めて感じます。