今回は「法医学に向いているのはどういう人か?」というテーマです。
私の独断と偏見ですけどね。笑
私自身が『こういう法医学者と一緒に仕事したら働きやすいんだろうなぁ』という観点も含めて書いていきたいと思います。
結論から書きますと、私が考える"法医学に向いている人"は...
・コミュニケーション能力がある人
・秘密厳守が守れる人
・高い倫理観のある人
・探究心(好奇心)のある人
・思いやりのある人
と思います。
逆に"法医学に向いていない人"は...
・ご遺体や臭いに耐性のない人
・不規則な仕事が苦手な人
・バイトをやりたくない人
などは、法医学でやっていく上で大変かも知れません。
ただ法医学の世界は広いですので、例外(そこを避けられる法医学分野)もありますので、それについても触れたいと思います。
法医学に興味がある方にとって、まず気になるのは、
『果たして自分は法医学に向いている人間なのか?』
というところだと思います。
法医学者は医師の中でも特殊な存在です。
一方でその情報は乏しかったりしますので、そこを不安に思う方もいらっしゃると思います。
"法医学に向いている人"というのは、冒頭に挙げたように、法医学に特別な条件ではなく、実際は「人として"まともな"人」と言えると思います。
なので、あまり肩肘張らずに考えてもらってよいのではないでしょうか。
ひとつずつ具体的にみてみましょう。
【コミュニケーション能力のある人】
これは意外と勘違いされやすいところです。
『法医学は日陰の存在だから"ハイポ"な人でも大丈夫』
みたいな噂をたまに耳にしますが、全くそんなことはありません。
法医学ではかなり多くの人と接します。
同じ教室員だけではなく、
・遺族
・警察関係者
・検察官/弁護士
・他の法医学者
・臨床医
・警察医
・児童相談所関係者
・被虐待児
パッとすぐ思い付くだけでも日々このような方々と接する機会があります。
ナーバスな状況も多々ありますので、相手の気持ちを考えてコミュニケーションをとれなければなりません。
病理組織や薬毒物の専門職などであれば、ある程度接点を減らすことは可能かも知れません。
でも法医学において医師は少ない上に、中心となっていろいろとマネージメントしなければならない存在なので、なかなかこれを避けられません。
狭い世界なので、法医学者同士の良好な横の繋がりという意味でも、コミュニケーション能力はあってしかるべきだと個人的には思っています。
【秘密厳守が守れる人】【高い倫理観のある人】
これは言わずもがなですよね。
業務上で知り得た情報をぺらぺら喋ったり、SNSに書いてしまうような方は法医学で働くのに適していないのは言うまでもないでしょう。
自分で責任が取れるレベルの存在であれば問題ない(誰も何も言えない)のでしょうが...。
【探究心・好奇心のある人】
法医学者は単に解剖するだけの存在ではありません。
『経験を基に未来に向けて研究活動をする』ことも立派な役目です。
日々の充実した業務に満足してしまうのではなく、普段から疑問を感じ、それを探求していく気持ちが大切です。
長い目で見ると、法医学者として自身の専門を追々持つことになると思います。
それでも、医師が法医実務をこなす上では、その専門分野のみならず、多方面に渡る法医学分野の知識を広く持っていなければなりません。
法医学は「知りません・分かりません」では許されない領域ですからね。
そういったことを踏まえると、いろいろな分野に興味を持っていることは法医学において強い武器になるかと思います。
【思いやりのある人】
これに関しては、コミュニケーションの箇所でも書きましたが、法医学はナーバスな状況もしばしばあります。
相手を思いやる気持ちがなければなりません。
またご遺体は喋ってくれませんので、そこでは我々の気遣う心こそが問われます。
続いて"向いていない"というか、「少し努力する必要がある点」についてです。
【ご遺体や臭いに耐性のない人】
これは業務の性質上、ある程度は許容せざるを得ません。(参考記事:腐敗臭)
特に夏場は腐敗が進んだご遺体も多いです。
しかし、腐敗の進んだご遺体だからといって死因を究明しなくてよい理由にはなりません。
通常通り誠意を持って粛々と死後診断に努めます。
「どうしても...」という場合は、教室に考慮してもらって解剖業務を少なくしてもらうという対応が可能かも知れません。
ただしそういった対応ができるのも人手が多い一部の教室に限られるでしょう。
医師である以上、解剖業務を避けることはできません。
ただある程度これに関しては「慣れ」ます。
日常では経験しないので、確かに当初は慣れないことも多少あるかとは思います。
それも月日が流れるにつれ、段々と慣れてくるというのは誰しもが経験するはずです。
【不規則な仕事が苦手な人】
これは『解剖がいつ入るか?というのが分からない』ことに起因します。(参考記事:法医学者の労働環境、法医学者の休日)
「朝の時点では解剖は予定されていなかったのに、当日いきなり警察から解剖依頼が来て午後から解剖が始まる」ということも頻繁にあります。
法医学者にはフットワークの軽さが求められます。
場合によっては、休日に解剖業務が入っていることもあります。
法医学はこういった不規則・イレギュラーな業務体系であることは理解しておく必要がありますね。
【バイトをやりたくない人】
若手の間はバイトが必要になることがほとんどです。(参考記事:法医学者のアルバイト)
日々の業務の合間ないしアルバイト日を決めて働きます。
これは法医学者としてアルバイトをするわけではなく、あくまで"臨床医"として働くことになります。
そういった臨床医学に対する不安を感じる人もいるかも知れません。
ですが、医師のアルバイトにはそこまで臨床の知識を必要としないものも多々あります。
それを選んで働けば、臨床知識に対する不安も避けられると思います。
また、ある程度年数を重ね職階が上がれば、アルバイトをする必要もなくなってきます。
以上、"法医学に向いている人"+α について書きました。
文字にすると大層に見えますが、実際に考えると当たり前のことだと思います。
多少は法医学の特有のものもありますが、結局はほとんどが「人として・医師として」と考えた際に当たり前のことなんです。
上を見ても、やはり法医学者として大成されている先生方は人としても素晴らしい方々ばかりです。
私自身はまだまだ足りないところばかりです...。笑
法医学に入ってから成長することも多くあると思います。
決して今回の記事を読んで諦めるというのではなく、そこを目指しつつ働く中で成長できれば万々歳なのではないでしょうか。
私自身もこれからも成長すべく精進していきたいところです。