"皮膚割線"という言葉を聞いたことがありますか?
形成外科や美容外科の先生だったら聞いたことがあるかも知れません。
簡単に言うと「皮膚線維の流れる方向」を指すのですが、これが法医学、特に"刺創"に影響してくることがあります。
今回はこの"刺創と皮膚割線の関係"について書いていきたいと思います。
皮膚割線:皮膚真皮にある弾性線維の走行を表した架空の線。これを示した解剖学者の名を取って"ランガー割線" [Langer's lines]とも呼ばれる。
↑の通りで、よく教科書にも載っていますよね。
この皮膚割線に沿ってメスを入れると傷が目立ちにくいとされます。
従って、傷の治りをとても重視する形成外科や美容外科の先生には馴染みの知識なのです。
これが法医学の何に関係があるのか...?
それは"刺創"に関係してきます。(参考記事:「刺創」)
結論から言うと、「皮膚割線に対してどのような向きで刃物が刺さったのか?」によって傷の形状が変わってくるのです。
このように同じ刃器を用いた場合であっても、
皮膚割線に垂直 → 幅の広い刺創(口)。
皮膚割線に平行 → 幅の狭い刺創(口)。
になるのです。
また斜めに刃物が入った刺創は、その走行に応じて刺創口が歪みます。
ちなみに「死後に刺されて出来た刺創に比べ、生前に出来た刺創は創口が開いている」という現象は法医学で有名です。
この理由は「生きている間は、皮膚緊張や筋収縮が起こるから」です。
ただしどのパターンであっても、創縁を接着した際の長さ(=接着長)が傷の大きさが"刃幅"に近いとされ、凶器の推定に役立ちます。
このため、刺創をみたら法医学者は必ず接着長を測定しなければならないのです。
今回は"刺創と皮膚割線の関係"をみてきました。
冒頭に書いたように、"皮膚割線"は傷跡を重視する形成外科や美容外科など臨床医学では有名な知識ですが、法医学でも重要な知識です。
臨床医と法医学医でみる対象が「生か?死か?」という違いこそあれど、「傷を重視する」という視点は両者で共通しているということですね。
改めて臨床医にシンパシーを感じます。