身内が亡くなった際、多くの遺族が解剖を終えたご遺体を引き取ります。
しかし、身寄りがいなかったり、いろいろな事情で遺族・親族が引き取りを拒否されるご遺体もいらっしゃいます。
今回はそういったご遺体にまつわるお話を書きたいと思います。
当然解剖が終わりますと、最終的に荼毘に付されるわけなのですが、解剖後のご遺体は引き取り人である"ご遺族・ご親族"にお渡しすることになります。
通常はそこから先は普通のお葬式の流れになります。
ところが、ご遺体をお渡しする"ご遺族・ご親族"がいなかったら...。
もしくは、"ご遺族・ご親族"がいてもご遺体の引き取りを拒否したら...。
どうなるのでしょうか。
結論は、"自治体/役所"がご遺体の引受人となり、以後の対応をしてくれます。
最終的に条例等で定められた納骨堂や無縁墓地に埋葬されます。
詳しくみていきましょう。
法医学では様々な事情を抱えたご遺体に出会います。
引き取り手のいないご遺体にもよく出会います。
「引き取り手がいない」というのにも様々なケースがあります。
①身元がわからず、引き取り人を探し出せないケース
②身元はわかっているが、引き取り人がいなかったケース
③身元がわかっており引き取り人もいるが、引き取りを拒否されたケース
①は"行旅死亡人"と呼ばれたりします。
②や③は世間一般には俗に"無縁仏"と言ったりますよね。
"行旅死亡人"の扱いについては"行旅病人及行旅死亡人取扱法"に規定されています。
また"無縁仏"に関しても、相続人が相続拒否(引き受け拒否)すれば、結局"行旅死亡人"と同様に扱われるケースが多いと聞きます。
警察や行政が身元を調べ、身内を探し、それでわからなければ"行旅死亡人"として、自治体が火葬します。
遺骨は一定期間保管され、ご遺体の情報(年齢や外見・特徴、所持品、死亡場所・日時・状況等)を官報に掲載されます。
それでも引き取り人が現れなかった場合、条例等で定められた納骨堂や墓地に埋葬されます。
ちなみに年間およそ600〜700件の行旅死亡人が官報に公告されているそうですね。
法律的な話になりますので、これらの詳細に関しては他に譲ります。笑
病院でお亡くなりになった患者さんは、当然ですが、病院に受診する意思があって来院したわけです。
もしくは、家族の救急要請によって受診することもありますかね。
近年は独居老人の増加とともに、病院でも行旅死亡人や無縁仏が増えてきたという話も聞きますが、それでも、ご遺体の身寄りがないというケースは比較的多くはない気がします。
それに比べると、法医学領域で扱うご遺体は多彩です。
医療機関を受診しない(したことがない)ご遺体にも実際よく出会います。
それだけでなく、俗世から離れ、周囲との関わりを避けて生活されていた方にもお会いします。
そして中には家族や親族との関わりすらも断ち、いわゆる"孤独な"ご遺体もいらっしゃいます。
ですので、必然的に行旅死亡人や無縁仏となるご遺体も多くなります。
この点は法医学の大きな特徴かも知れません。(...だからいろんな本が執筆されるのか?)
私自身も様々な事情を抱えたご遺体の情報を解剖時に警察からお聞きします。
たまに「独居遺体をみてどう感じますか?」と聞かれることもありますが、必ずしもネガティブなご遺体ばかりでもない気が私はしています。
確かに孤独死の場合は、終末期や死後に身の回りの片付けなどのお世話をしてくれる人がいませんので、現場写真だけで判断してしまうとどうしてもネガティブなイメージがあります。
でも、例えば『最期まで自分の好きなことや物に囲まれて亡くなる』というのは考えようによっては幸せな死に方と言えるのかも知れません。
家が大好き、ペットが大好き、お酒が大好き、甘いものが大好き、そしてひとりが大好き...。
昨今よく言われる「病院ではない"自宅でのお看取り"」にも通ずるものがありましょうか。
臨床情報や捜査情報などは得られるとはいえ、我々法医学者は死後という一点でしか実際のその人をみることができません。
ですが、その人の人生というのは決してその一点で表しきれるほどのものではないんですよね。
きっとこれまでいろんな経験をしてきたんだろうなと思うと、限られた情報だけで安直に推測することなんて私にはできないです。
人にはいろいろな死の形があっていいはずです。
そして、それは他人がとやかく言うべきものでもないと思います。
たとえそれがどのような形であっても、故人への敬意を忘れず、我々法医学者は真摯に真剣に向き合って粛々と正しい判断をしていくだけなんだと思いますね。