今回は特に頭部外傷でよく認められる"直撃損傷・対側損傷"について書きたいと思います。
頭をぶつけた時、ぶつけた側の脳にダメージを受けるのはイメージできると思うのですが、実際はぶつけた方とは逆の反対側の脳に(も)ダメージを受けていることがあります。
この際の、ぶつけた側の損傷を"直撃損傷"、ぶつけた側と反対側の損傷を"対側損傷"と呼びます。
ここでの重要なポイントが『(そちら側を)ぶつけていないにも関わらず脳損傷が認められることがある』ということが重要です。
もっと言うと、、、
頭部外傷および脳損傷を認めた際、外見上にキズがなかったとしても脳損傷を起こすことはあって、
(外側にキズを作らなかった)直撃損傷なのか?
対側損傷なのか?
というのを、丁寧な外表観察を通して判断しなければなりません。
画像を交えながら詳しくみていきましょう。
前述のように、転倒などで頭部を打撲した際にできる損傷として、
打撲部の側に出来た損傷:『直撃損傷』[coup injury]
打撲部とは反対側に出来た損傷:『対側損傷』[contre-coup injury]
と呼びます。
※元々フランス語から来ているので、本来は"コントルクー(contre-)"と呼ぶみたいですが、昨今は英語表記の"コントラクー(contra-)"という表記も見られます。
また法医学では、直撃損傷を"衝撃側損傷"、対側損傷を"反衝損傷"と呼ぶことも多いです。
対側損傷の頻度として多いのが、後頭部を打って出来た前頭葉(特に前頭極)や側頭葉(側頭極)の対側損傷です。
典型的な後頭部打撲であれば、当然外表上その打撲部位には皮下出血や挫創があることが多いです。
ただしヘルメットを着けていたり、比較的柔らかい物への打撲ではキズがないこともあります。
そして、打撲部位の反対側には、直上の表面にキズのない前頭極や側頭極の"対側損傷(対側挫傷)"が確認されます。
後頭部打撲の場合、"対側損傷"が"直撃損傷"よりも目立つことが多いとされます。
逆に、前頭部の打撲では後頭葉(極)の"対側損傷"は目立たず、そもそも"対側損傷"がない場合もしばしば経験されます。
また「頭部が別の物体にぶつかっていったのか?」「頭部が別の物体にぶつけられたのか?」という違いでもこの損傷の発生頻度は変わります。
このように"直撃損傷"が発生しやすい状況、"対側損傷"が起きやすい状況というのがありますので、それも参考にして損傷・挫傷の成傷機転を考えます。
そもそもこのような現象が起こるのは、
・豆腐のような柔らかな脳が
・硬い頭蓋骨という骨に囲われて
・髄液という液体にプカプカ浮かんでいる
ために起きます。
イメージすると分かると思いますが、前述のように後頭部を打撲した際を考えますと、
打撲すると、まず後頭葉が硬い頭蓋骨の壁にぶつかって後頭葉の挫傷が出来て、
その後、反動で脳が前に移動し、再び前頭葉が硬い頭蓋骨の壁にぶつかって前頭葉の挫傷が出来るわけですね。
慣性の法則や頭蓋内の陰圧なども関係していると言われます。
個人的には"交通事故における多発損傷"と近いものがあると思ったりしています。
ということで、今回は"直撃損傷・対側損傷"についてみてきました。
ここでも法医学的に重要なのは「目の前にある脳損傷がどのような(打撲)状況によって出来たのか?」をはっきりさせることです。
「滑って倒れた」という状況のみなら判断も難しくありません。
しかし、例えば『誰かに①頭を殴られて、その後転倒して②頭部を打撲した』なんて状況なら、「どの脳損傷が何によって出来たのか?」という判断は一気に難しくなります。
しかも場合によっては、「頭を殴られてその後転倒した」という情報すらそもそもないこともあるわけです...。
"死後"という1点だけを見て、その線上にあるはずの"生前"の状況を判断するのは極めて難しいんですよ。。
日々精進するのみですね。