今回は"クレンラインショット"という銃器損傷にまつわる現象について書いていきます。
銃器損傷の詳細は参考記事を是非ご覧ください。
銃器損傷①:射創の種類
銃器損傷②:射創の距離
銃器損傷③:射創の向き
なかなか射創・銃創というのは、日本ではあまり馴染みがありません。
しかし、アメリカでは薬物中毒とともに"銃創"は大きなテーマであり、報告や研究も進んでいます。
今回はそんなアメリカ、、、ではありませんが、スイスの先生が報告した"クレンラインショット"についてみていきましょう。
【クレンラインショット】[Krönlein shot]:銃器を接射や近射した際、発射時の爆圧によって体内から臓器が脱出してしまう現象を言います。特に「頭蓋内からの脳の脱出」を指す。
前述のように、この現象の名前は報告者であるスイスの外科医であるクレンライン先生から来ています。
ちなみに、Wikipediaによると、このクレンライン先生は世界で初めて虫垂切除術を報告した先生だそうです。(※参考Wikipedia)
詳しくみていきます。
【クレンラインショット】
銃器を発射すると、弾丸以外に急速燃焼(爆発)した火薬によって圧力、いわゆる"爆風"が生じます。
銃器による自殺といった接射や近射の場合、この強い爆圧・爆風によって脳が頭蓋内から吹き飛んでしまう現象を言います。
当然ですが、このような場合は、脳だけでなく併せて頭蓋骨も破裂・粉砕してしまうことも多いみたいです。
この現象は弾丸が直接接触して作用するわけではなく、あくまで『"爆圧・爆風"による脱出』というのが特徴ですかね。
それでもやはり散弾銃やライフル銃のような近接威力の強い銃器で起こりやすいようです。
元々も戦時中の症例における頭部銃創として記述されているようですので、ある程度特殊な状況下で起き得ると言えるでしょう。
さらに調べてみると、接射・近射撃という特性上、状況としてはやはり自殺の報告が多かったです。
小脳を含め脳全体が出てしまう完全脱出のタイプもあれば、
・小脳だけを残して大脳が脱出する
・大脳の一部のみが脱出する
などの不完全型という類型もあるようです。
以上、"クレンラインショット"でした。
日本で銃器損傷に出会う経験する機会は少ないです。
私自身も数えるほどしかありません。
あったとしても拳銃(ピストル)のような比較的軽い銃器か、または猟銃ですね。
後者ならあり得そうですが、それでもこの"クレンラインショット"を日本で経験する機会は殆どないと言ってよいでしょう。
この現象に関しては「"クレンラインショット"があるから、銃による外傷である」というような類いの所見ではありません。
ご遺体を見れば、キズが銃器損傷であることは明らかでしょうから。
大事なのは『銃器やその条件によっては"クレンラインショット"という現象でも脳の頭蓋外への脱出は起こり得る』という知識を持っていることなのでしょうね。