第114回医師国家試験 B問題 問35 [114B35]

114B35
82歳の男性.胃癌の終末期のため自宅で最期を迎えたいという本人と家族の意向に従って在宅で緩和医療を受けていた.前日の主治医による診察時には傾眠状態であり,かろうじて呼名に反応がみられた.今朝,妻から「息をしていないようだ」と訪問看護ステーションに連絡があり,主治医が看護師とともに自宅を訪問した.呼吸は停止しており,心拍は確認できない.対光反射はなく瞳孔は散大している.他の身体所見に不審な点は認めない.
対応として適切なのはどれか.

a 救急車を呼ぶ.
b 警察に通報する.
c 心肺蘇生を行う.
d 自家用車で病院に搬送する.
e 死亡確認し,死亡診断書を作成する.




正答は【e】です。


[a] 誤り。すでに"死の三徴候"が認められており、搬送適応はないと考えられます。当該医師は主治医で臨床経過も理解できており、患者や家族が自宅で最期を迎えたいという希望もあることから、あえて救急車を呼ぶ必要はないと思います。

[b] 誤り。胃癌終末期の臨床経過として矛盾はなく、「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体」と言えそうです。また身体所見にも不審な点は認めず、異状死体の届出(≒警察への通報)は不要と考えられます。

[c] 誤り。前述ように、すでに"死の三徴候"が認められていることから、蘇生行為への反応性・回復の見込みは極めて低いと考えられ、心肺蘇生の適応はないと思われます。

[d] 誤り。[a]や[c]の解説の通りです。あえて病院に搬送する必要はないと考えられます。

[e] 正しい。[b]の通り、異状は認められませんし、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」に該当すると考えられるので、死亡確認・死後診察の上、"死亡診断書"を作成し遺族に交付するのが適切な対応と思われます。



"在宅看取り"における臨床問題ですね。

似たような問題が過去に出題されています。(類似問題:110G44)

問題文からは「これでもか!」と、このまま在宅でお看取りして"死亡診断書"を交付する意思が読み取れます。


実際の現場感覚としても、この問題・対応に違和感は感じないことでしょう。

主治医であれば、これまでの臨床経過に加え、患者・遺族の強い意思を理解しているでしょうから、

・「異状あり」と認められる → 警察に届け出る
・治療適応がある → 救急搬送する

こういった状況でない限り、このまま"死亡診断書"を交付するのが自然なのではないでしょうか。

ちなみに、この主治医は前日(24時間以内)に診察を行っているので、法的には「死亡後に改めて診察を行わずに"死亡診断書"を交付」できますが、

死亡診断書の内容により正確にするためにも、死後診察は改めてきっちり行うのがよいでしょう。



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