2021年9月16日発売 新潮社 (出版社URL)
『死体格差―異状死17万人の衝撃―』 (著:山田敏弘)
年間約17万人――高齢化が進む日本では、孤独死など病院外で死ぬ「異状死」が増え続けている。そのうち死因を正確に解明できるのは一部に過ぎず、犯罪による死も見逃されかねないのが実情だ。なぜ、死ぬ状況や場所・地域によって死者の扱いが異なるのか。コロナ禍でより混迷を深める死の現場を赤裸々な証言で浮き彫りにする。(※出版社サイトより)
上記の本を読み終えましたので、感想を書いていこうと思います。
『読みやすくありながら、現在の法医学が抱える問題が理解しやすく書かれており、是非万人に読んでいただきたい!』と感じましたね。
ただ法医学の本で一般的な「解剖された"ご遺体"にフォーカスを当て、それぞれのご遺体の背景などを掘り下げていく」といった内容ではありません。
この本では「実際に法医学で働いている"法医学医"にスポットライトを当てている」というのが特徴かつ素晴らしい点なんです。
この点は、著者がジャーナリストであるからこそ書けたものであり、法医学者自身が著者の本ではきっと不可能でしょうね。
具体的にはメインとして6人の法医学者がフューチャーされています。
各先生方は法医学でも有名な先生方ばかりなので、当然私自身も存じ上げておりますし、そういった意味でも、実際に法医学者として働く身からしても大変興味深い本でした。
もちろん総論的の[あらすじ]や[あとがき]、[第1章]だけでも全然読む価値は大いにあると思います。
取り上げている法医学諸問題についても、
「死んだ場所や地域によって死因究明に差がある」
を始めとした、法医実務において現在進行形で議論となっている主要な問題が満遍なく取り上げられています。
ですので、この本を読めば現在の法医学・死因究明制度が抱える問題が知れると思いますね。
本自体には難しい用語も殆ど出てきませんし、大変読みやすかったです。
私自身数時間で読み終えられました。
法医学の知識や現象を事細かに解説したものでもない(あくまで"法医学の問題提起")ので、そういったのを期待されている方は違うかも知れません。
私がこの本を読んで特に共感や心に残ったのが、
・法医学者は中立であるべき
・医学的な事実を提示できるのは法医学者だけである
・法医学者は本来は現場に行くべき
・安い解剖費用では満足な死因究明はできない
・米国では一定期間経過後に第三者であっても死因情報を開示請求できる
こういった点ですかね。
その他、ある先生の章で「若い世代の法医学者が~」という触れ方をされていたのには感銘を受けました。
詳細は書けないため、どれも断片的で漠然とした内容で申し訳ありません。
内容で気になった点をあえて挙げるなら次の2点ですかね。
①「警察医(や検視官)は死因究明について専門知識は持っていない」
→ 警察医の先生方も熱心に勉強している方は多いので、ここまで言い切ってしまうのも...。ただ実際にご遺体をみている私自身も『検案だけで死因を決めるのはかなり厳しい』とは感じますので、著者の言いたいことは分からないでもないですが。
②「監察医は非常勤の医師」
この記載はちょっと語弊のあって、もっと正確に言うと『監察医は非常勤の医師が多い』となると思います。実際に監察医にも常勤医はいますので、その点は勘違いのないように注意が必要ですかね。
いやしかし、『法医学者自身に焦点を置いた』というのがやはり私にとって1番良かった点でした。
ここに関しては一般の方が読んでどう思うか?はまた別の話ですが。笑
それでも、現在の法医学が抱える問題を知ってもらいたいですし、是非皆さんにも読んでいただきたいですね。
素晴らしい本でした。