第96回医師国家試験 G問題 問75 [96G75]

96G75
死亡時刻の推定に有用でない死後変化はどれか.

a 直腸内温度
b 死斑
c 死体硬直
d 角膜混濁
e 瞳孔径




正答は【e】です。


[a] 正しい(=死亡時刻の推定に有用である)。"直腸内温度"は死亡時刻の推定に有用です。【(37.0 ー [直腸内温度]) ÷ 0.8】で死後経過時間が概算できます。

[b] 正しい(=死亡時刻の推定に有用である)。"死斑"、もっというと"死斑の退色性"が死亡時刻の推定に役立ちます。死斑の"色調"や死斑の"強さ"は死亡時刻の推定には直接役立ちませんが、"死因の推定"に有効な場合があります。

[c] 正しい(=死亡時刻の推定に有用である)。"死体硬直(死後硬直)"は死亡時刻の推定に有用です。死後硬直は死亡のおよそ1〜2時間後に出現し、死後12〜15時間で完成し、24〜36時間から緩解し始め、その後消失していきます。

[d] 正しい(=死亡時刻の推定に有用である)。"角膜混濁"は死亡時刻の推定に有用です。角膜混濁は死亡のおよそ6時間後から出現し、徐々に進行していき、死後48時間で瞳孔は透見できなくなります。

[e] 誤り(=死亡時刻の推定に有用でない)。"瞳孔径"は死亡時刻の推定に有用ではありません。[d]のように、"角膜混濁"は死亡時刻の推定にしばしば用いられます。ちなみに臨床では「縮瞳→頭蓋内占拠性病変」といった認識もありますが、法医実務上は殆ど用いられません。



"死亡時刻推定に有用な法医学所見"に関する問題です。(類似問題:93A44)

↑の類似問題の通り、2度目の出題になるとさすがに目新しさも無くなりますね。

ちなみに今回の選択肢では、ざっくりと"死斑(b)"となっていますが、「死亡時刻の推定に有用であるのは"死斑の退色性"である」ということはしっかりと理解しておきましょう。


また[e]の解説について補足します。

解説の通り、臨床医学では"瞳孔径"というのは脳圧亢進や一部の薬物中毒などの所見として有名です。

しかし、法医学ではあまり一般的ではありません。


"瞳孔径"は、つまり"瞳孔の大きさ"のことですよね。

瞳孔の周りには"瞳孔括約筋"というのが囲んでいて、それが収縮・弛緩することで瞳孔の大きさは変わります。

"瞳孔括約筋"も筋肉なので、死後は当然硬直します。

それならば「生前の瞳孔径は固定されるのではないか?」と思う人もいると思います。

ところが、死直後は筋肉が一旦弛緩するため、瞳孔の大きさもリセットされてしまうのです。

このため「死後の瞳孔径は死因の推定にも有用ではない」と言われるのです。

実際は脳出血のご遺体でアニソコリアを認めることも個人的にある気もしますが、、、教科書的には「有用ではない」と覚えておきましょう。



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