皆さんは"内因性急死"という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「内因性の急死、、、つまりは非外因性の急死かな」と思う方も多いでしょうが、法医学では実は少し違ったニュアンスで使われることが多い言葉なのです。
今回はそんな"内因性急死"について書いていきたいと思います。
【内因性急死】
...一見すると、前述のように、単なる「内因性の急死」と思いがちです。
しかし、これは少し違っています。
日本法医学会のHPでは、"内因性急死"を下記のように説明しています。
「内因による(予期されない)急性の死亡。心筋梗塞等の心疾患や、くも膜下出血等の頭蓋内疾患によるものが多い。」
(※日本法医学会 法医学用語集より)
この日本法医学会による定義も少し分かりにくいのですが...括弧書きの"予期されない"というのが実は重要です。
もう少し分かりやすい定義が↓こちらです。
「明らかな病死以外の死(異状死) のうち、解剖、検査、捜査により外因死の可能性が除外された急死」
(※IATSS Review, 自動車運転中の内因性急死の実態と予防, 木林和彦, 米満孝聖,恒成茂行.)
詳しくみていきましょう。
「明らかな病死以外の死(異状死) のうち、解剖、検査、捜査により外因死の可能性が除外された急死」
法医学や医事法などで"内因性急死"という言葉が使われる場合は、基本的にこの意味で使われることが多いです。
特に"死因究明"や"異状死"などのテーマではほぼ確実にこちらの意味で使われていることでしょう。
ポイントは2つです。
①異状死の中で
②外因死(の可能性)が否定された急死 (≒急性の内因死)
この2条件に該当した死を"内因性急死"と呼んでいるのです。
確かに"内因性の急死"であることには間違いないのですが、
このように"異状死であること"を前提に、"外因死の可能性が除外された"という意味合いが強い言葉なのです。
日本法医学会の定義 [内因による(予期されない)急性の死亡] というのも、一見すると単純な「内因性の急死」と読めてしまいますが、"予期されない"という言葉の中におそらく①の意味合いを込めたのだと思います。
従って、異状死ではない内因による急死(→例えば、生前に診断された心筋梗塞による急死など)は、「内因性の急死」ではあるんですが、"内因性急死"とは呼びません。
本によっては、②の基準を単純に「="急性の内因死"」と読み替えず、「適切な死因究明が行われた上で、外因死が否定されたもの」と、死因究明の過程を強く意識しているものもあるようです。
逆を言えば、適切な死因究明が行われず、外因死の可能性が否定されていない場合の"内因性の急死"(推定)は、"内因性急死"と呼ぶべきではないとも言えます。
そう考えると、日本法医学会の定義は②の意味でもやや説明不足と思われますね...。
一部の法医学の教科書は、単純な意味(単なる内因性の急死)として"内因性急死"を使っているものも確かにあります。。
ですが、法学のテキストなどを読むと、ほぼ100%狭義の意味で使っています。
最終的には文脈で判断するしかありませんが、やはり法学テキストのように、ある程度シチュエーションをきちんと選んで使用されているケースがある以上、
"内因性急死"という言葉は「明らかな病死以外の死(異状死) のうち、解剖、検査、捜査により外因死の可能性が除外された急死」として使用すべきだと私は思います。
ちなみに「"急死"って何?」と言われると、統一された明確な定義はありませんが、
"発症後24時間以内の死亡" (WHOによる定義)
"発症後1時間以内の死亡"
などの意味で使われることが多いです。(24時間は法医学者的にはやや長い印象ですが...)
以上のように、"内因性急死"とは、実は字面以上に意味の込められた言葉であることがわかったと思います。
もし皆さんが法医学や法学を学んでいる時に"内因性急死"というキーワードが出てきたら、チラッとでもこの記事を思い出してくれると嬉しいですね。