今回は「歩行者における交通外傷」の中の"ボンネット損傷・フロントガラス損傷"について書いていきます。
前回の記事では、1次損傷としての"バンパー損傷"を書きました。(参考記事:「バンパー損傷」)
今回取り上げる"ボンネット損傷・フロントガラス損傷"は、バンパーに衝突後に続いて発生する外傷であり、こういったものを"2次損傷"と呼びます。
詳しくみていきましょう。
ボンネット損傷:ボンネットによる鈍的2次損傷。キャブオーバー型(箱形)自動車に比べ、ボンネット型自動車で認められることが多い。
フロントガラス損傷:フロントガラスへの衝突によって起こる。ガラス自体への衝突によって頭蓋骨骨折などを来すとともに、破裂したガラスによる特徴的な細かな切創("スズメの足跡"状)が多数認められることもある。
2次損傷を考える前に、衝突した自動車がどのような形か?というのが重要となります。
①ボンネット型:ex. セダン、クーペ...
②キャブオーバー型(箱型):ワンボックス、トラック...
これらの違いで受傷の形態が変わってきます。
①ボンネット型では名前の通りボンネットがありますので、バンパー衝突後に胸や腰、場合によっては頭などをボンネットで打撲します。
これが"ボンネット損傷"です。
損傷の程度は、衝突したボンネットの真下にある部品(エンジンやバッテリーなど)によって様々です。
当然ですが、硬い部品があれば損傷の程度は大きくなります。
またボンネットではなく、硬いピラー(フレーム)に当たってしまうことでより損傷は重篤になります。
この"ボンネット損傷"は時速40-60km程度で発生しやすいと言われます。
時速30km以下ではボンネット上にすくい上げられることがなく、バンパー衝突後、前方に投げ出されます。
時速70km以上になってくると、衝突によって上に跳ね上げられてしまい、こういった2次損傷は出来にくいと言われています。
これが②キャブオーバー型だった場合、構造上そもそもボンネットがないため、ダイレクトにフロントガラスに衝突します。
これが"フロントガラス"損傷ですね。
キャブオーバー型自動車では、バンパー損傷と同時に"フロントガラス損傷"が同時に起こり得るため、この場合は、厳密に言うと"2次損傷"とは言えないかも知れません。
ダイレクトに衝突が起こるため、後述のボンネット型自動車の"フロントガラス損傷"よりも重大なことが多いです。
ボンネット型では純粋に2次損傷としての"フロントガラス損傷"が起きやすいです。
ただ、どちらにせよフロントガラスに衝突したことによる損傷なので、"フロントガラス損傷"としてその点はあまり神経質になる必要はありません。
最近の車のフロントガラスは"合わせガラス"が用いられています。
この合わせガラスは、窓ガラスが割れた時のように破片が鋭く飛散することを防ぐ加工であり、合わせガラスが割れた際は"蜘蛛の巣状"にヒビが入るのは有名です。
フロントガラスへの衝撃がさらに強い場合は、小さな破片となって粉々に弾けるため、ご遺体の頭部や上半身には細かな切創がたくさん出来ることになります。
この特徴的な切創は見た目が似ていることから"スズメの足跡"状と表現されることがあるそうです。
逆に、道ばたに倒れたご遺体にこのような細かな切創が多数認められた場合は、自動車への衝突を疑う必要があるでしょうね。
以上、今回は2次損傷としての"ボンネット損傷・フロントガラス損傷"をみてきました。
このように、交通外傷では順を追って損傷が出来ていきます。
検案・解剖ではご遺体に認められた損傷をこうやって分類していくことで、受傷時の状況を把握していきます。
だからこそ、交通外傷では見た目だけではなく解剖も含めたキズを丁寧に観察することが重要なのです。
次の記事は、1次、2次と来たので"3次損傷"(+轢過損傷)になります。