焼死と火傷死の違い

乾燥した時期になると"火災"が増えますが、皆さんは「なぜ火災に遭うと亡くなってしまうのか?」について考えたことがありますか。

「そんなの火で焼けたから亡くなったんでしょ」

そう思った方は是非最後まで読んでいただきたいですね。


実際はそんなご遺体ばかりではないんです。


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火災に関連した死亡は大きく分けて以下の3つがあります。


『火傷死』:直接的な火炎による死亡。

『一酸化炭素中毒死』(CO中毒死):火災によって発生したCOによる死亡。

『焼死』:上記2つを含めた様々な火災に関連した要素を複合した死亡。


今回はこれらについて書いていきたいと思います。



『CO中毒』については以前別の記事で詳しく書いておりますので、そちらをご覧ください。(※参考記事:CO中毒)



冒頭に書いた通り、実際の火災関連死には①火傷死 ②CO中毒死 ③焼死 の大きく3つがあります。

特に勘違いされやすい①火傷死と③焼死の違いについて、ひとつずつ見ていきましょう。



①火傷死

これは『火炎による熱傷に起因した死亡』です。

もっと簡単に言えば、重度の火傷(やけど)による死亡のことです。

おそらく皆さんが最も頭に浮かんでいる火災関連死だと思います。


詳細は救急医の先生方の方が詳しいと思いますが、簡単に説明していきます。

火傷は、その火傷が起きた深さによって重症度が4つに分けられます。

・I度:火傷の深さは"表皮"まで。最軽度。皮膚が赤っぽくなる。
・II度:火傷の深さは"真皮"まで。水ぶくれができる。
・III度:火傷の深さは"皮下組織(脂肪や筋肉等)"まで及ぶ。白っぽくなる。
・IV度:完全に炭化してしまう。

IV度を認めるケースでは生存できる可能性が極めて低いので、臨床ではあまり言及されない(III度まで)かも知れません。

法医学ではむしろIV度はざらにありますね。


これらの知識を持った上で、『身体の何パーセントが火傷しているか?』を計算します。

身体の11カ所に区切って計算する"9の法則"や似たような"5の法則"、掌がおよそ1%なのでそこから計算する"手掌法"がよく使われます。


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それらを駆使した上で全身の火傷の面積を計算し、『どの重症度の火傷が』『何パーセントあるか?』を割り出します。


次に以下の"熱傷指数"を計算します。

【熱傷指数(バーンインデックス) = [III度熱傷の熱傷面積] + 1/2 × [II度熱傷の熱傷面積]】

この『"熱傷指数"が20を超えると死の危険が出てくる』と言われています。


また熱傷指数に年齢を加えた"熱傷予後指数"

【熱傷予後指数 = [熱傷指数] + [年齢]】

『"熱傷予後指数"が100を以上だと予後不良である』という指標もあります。



②CO中毒死

※省略 (詳細はこちらの記事へ)



③焼死

意味としては『火災に関連した複合的な死亡の総称』と言えます。

「それなら①の火傷死や②CO中毒もこの概念に含れるのではないか?」と言われればその通りなんです。


"焼死"を細かく見てみると、火傷死・CO中毒の他、"低酸素による死亡"の3つの要因が大きいと言われています。(※もちろん他にもシアンなどの有毒ガスによる死亡などもあります)

しかし、必ずしもこれら単独が致命傷である場合ばかりではなく、どれもある程度はあるが決め手に欠けるケースというのもあります。

こういったケースの中は「それぞれが合わさって死に至った」と思われるものもあり、それに対して"焼死"という死因をつけることが多いでしょうか。


また前述の"低酸素による死亡"というのは、火傷死やCO中毒死に比べると、実際に死後に診断するのは困難なケースも多いんですよね。

なので、この死因に関しては実際は"焼死"とされることが多いかも知れません。



さて以上3つをみてきましたが、『"焼死"は"火傷死"も含んだ広い概念』ということでした。

「だったら全て"焼死"にすればよいのではないか?」と思う人もいるでしょうか。

これの答えとしては、私はNoと言いたいですね。


この理由にはいくつかあります。

イメージしやすいのは、例えば"CO中毒死"だったら「生前にCOを吸引している→火災を契機に亡くなった可能性が高い」と言えます。

他の火傷死や焼死では、

『別の死因で亡くなった後に火災に遭ったのか?(→例えば殺人後の放火...)』

『本当の意味で火災によって亡くなったか?』

というのを、もっと細かく確認していく必要がありますし、確認しても判断が困難なケースも出てくるかも知れません。

特に"焼死"なんかは様々な要因を含んだ死因なので、やはりその死因名自体に情報は多くないですよね。

もしかしたらそれを気にしない法医学者もいるのかも知れませんが、私自身は『できる限りより細かい死因をつけたい!』と常日頃から思っています。

法医学者としてのプライドでしょうか。



今回は"焼死"と"火傷死"の違いを中心にみてきましたが、理解できましたか。

ただし検案書を記載する法医学者によって考え方は違うこともあります。

必ずしも今回書いた通りの解釈で用語を使ってはいないこともあるので、そこは十分留意する必要があります。


検案書自体はA4のたった1枚だけですが、皆さんが思っている以上に法医学者はいろいろ考えて記載しているんですよ。