『法医学者不足』が叫ばれるようになって久しいですが、死因究明等推進基本法の成立・施行に伴い、国も『法医学者不足』に対して支援を始めました。
しかし、まだまだ十分でないのが現状です。
とは言え、その『"法医学者の現状"が具体的にはどうなのか?』という実際の数字はあまり見えてきません。
今回はある論文を取り上げながらその具体的なデータをみていきたいと思います。
引用元情報は下記の通りです。
著者名:井奈波良一
論文タイトル:"医学部法医学分野に所属する医師の勤務状況および職業性ストレス"
雑誌:日本職業・災害医学会会誌 Vol.67 No.3 p186-192 (2019).
雑誌URL:http://www.jsomt.jp/journal/6703.html
学会URL:http://www.jsomt.jp
この論文を基にして、法医学者の労働環境についてみていきます。
詳細については原著論文をご確認ください。
各大学のHPで確認できた法医学者158人のうち、アンケート回答のあった47名が解析対象となっています。
職位では教授が24名と全体の50%強を占めていました。
以下は全体の平均値です。
年齢:48.4歳
法医解剖経験年数:18.7年
教室の法医学者数:2.4名
直近1ヶ月間において
勤務日数:24.7日
定時帰宅日数:4.4日
夜間当直日数:0.5日
休日日数:5.3日
1日の労働時間:10.7時間
そのうち
教育時間:1.6時間
研究時間:2.6時間
書類仕事時間:3.9時間
会議その他の時間:2.1時間
1週間の労働時間:61.5時間
1日の大学等にいる時間:11.7時間
睡眠時間:6.0時間
ライフスタイル(健康習慣)得点:4.9点
※満点が8点で、7-8点:良好、5-6点:中庸、0-4点:不良
バーンアウト得点:3.1点
※2.9点以下:健全、3.0-3.9点:バーンアウト徴候あり、4.0-4.9点:バーンアウト状態、5.0点以上:うつ状態
自覚ストレス度:54.2%
※0%:最低〜100%:最高
さらに原文には、教授と教授以外の法医学者で、様々な項目を解析されており、大変興味深いので是非読んでいただきたいですね。
論文の考察にも書かれていますが、『法医学者は病理医に比べ、休日日数や睡眠時間は短いが労働時間は長く、健康習慣得点も低い一方で、バーンアウト(燃え尽き)得点・自覚ストレス度・自覚的精神状態は病理医と変わらない』ということで、法医学者のタフな一面も垣間見えます。
その他に
『健康リスクは男性法医学者が女性法医学者よりも高い』
『教授は教授以外と比べると労働が荷重である』
などにも言及されております。
結論では、法医学者の人手不足に触れつつ『より多くの法医学者が勤務することを期待する』と締めくくっています。
この結果自体をどう捉えるかは論文の読者次第ですが、皆さんはどう感じましたか?
兼ねてから言っているポストの問題はあれど、私もやはり法医学教室における人手不足が根底にあると思っています。
この論文からもそれが読み取れる気がします。
今回取り上げた論文は、一部の法医学者を反映したものではありますが、法医学者の労働環境・労働状況を調査した貴重な報告です。
実は日本法医学会も法医学教室における実態調査アンケートを取ったりしていますが、やはり論文では考察が加わった文章なので良い意味で一味違った印象を受けますね。
ぜひ今後もこういった調査が定期的に行われ、労働環境の推移を見守っていきたいものです。
※今回私自身かなり注意を払った上で論文を引用させていただきました。もし万が一引用に問題あると感じた関係者の方がいらっしゃいましたら、お手数ですがメールフォームにてご連絡いただけますと幸いです。迅速に対応させていただきます。