引き続き「歩行者における交通外傷」シリーズです。
交通外傷1:「バンパー損傷」
交通外傷2:「ボンネット損傷、フロントガラス損傷」
今回は3次損傷・轢過損傷としての"タイヤマーク・伸展創"がメインです。
"3次損傷"とは「2次損傷に続いて起こる損傷」のことを言います。
「跳ね上げられた後に地面と衝突した際に起こる外傷」のことで、後述の"轢過損傷"と対比して具体的に"転倒損傷"とも呼ばれます。
ここまでの1次〜3次損傷を合わせて"衝突損傷"と言い、これらは車に衝突したことによって出来たものと判断されます。
地面が特に砂利やアスファルトなどの硬い素材の場合、それとの接触・擦過による骨折や挫創が認められます。
発生部位としては、身体の中でも突出した部位、つまり頭部や肘部、膝部などでよく認められます。
特に頭部への外傷は致命的となりやすく、実際の頭部への転倒外傷が致命傷であることもしばしば経験されます。
また頭蓋内出血の場合、受傷時は意識が清明でも、徐々に出血が進行し、後になって死に至る"意識清明期"が問題になることもあります。
この3次損傷の後に、更に後続の自動車等に轢過された時にできる損傷を"轢過損傷"と言います。
ちなみに、何故かこちらは"4次損傷"とは呼びません。(衝突した自動車による損傷とは区別するためか?)
この"轢過損傷"で重要な所見が"タイヤマーク"と"伸展創"です。
タイヤマーク:タイヤのトレッドパターンが印象されたもの。皮下出血は凹部に、表皮剥脱は凸部に出来る。
伸展創:轢過された際に皮膚が伸展され、皮膚が裂けて出来るキズのこと。腹部や鼠径部で出来ることが多い。
タイヤマークには"皮下出血"と"表皮剥脱"がありますが、前述のように
皮下出血:タイヤ溝(凹部)に一致。
表皮剥脱:タイヤ表面(凸部)に一致。
となっています。
ですので、漫画などで溝に一致した表皮剥脱が描かれていればそれは間違いです。
このタイヤの紋様はタイヤの種類によって様々あります。
ですので、当然これを手掛かりに車両の特定を進めることが可能であり、重要な所見であることは言うまでもないでしょう。
続いて"伸展創"です。
こちらは前述の通り、「皮膚が引き伸ばされることで裂けて出来る損傷」です。
皮膚割線に沿った平行な多数の亀裂です。
肉割れ:体重増加した際に出来るもの。
妊娠線:妊娠によって出来るもの。
と概念としては似たようなキズ?です。
また"伸展創"は、転落などの他の高エネルギー外傷でも出来るため、『"伸展創"は轢過された時にだけに出来るものではない』ということには注意しなければなりません。
この他、引きずられた際に出来る"引きずり損傷"や、以前詳しく記載した"デコルマン"も轢過損傷として挙げられます。(参考記事:「デコルマン」)
以上、"3次損傷(転倒損傷)"と"轢過損傷"でした。
特に"轢過損傷"での特徴的所見は法医実務上で見逃してはいけない所見と言えるでしょう。
「ここまで詳しくキズを観察する意義は何なのか?」ときっと思いますよね。
それはやはり「死亡時の詳しい状況を推定するため」だと言えます。
場合によっては、"衝突損傷"(=1〜3次損傷)ではなく"轢過損傷"が致命傷な可能性もあるわけです。
そうなると、最初に衝突した車ではなく、後で轢いた車の運転者が死傷させたということになるので、その責任も少なからず変わってきます。
だからこそ、交通外傷では法医学者に細かな観察や判断が求められているのです。
所見の見逃しが、誤った判断に結びつきかねません。
そして"見逃したこと"というのは、その時に検案した法医学者にしか分からないのです。
交通外傷の検案を行う法医学者の責任は極めて重いと感じます。