『法医学者(医)は医師の中でも法律に精通しているんだろうな』
そんなイメージを皆さんの中にもお持ちの方がいらっしゃるかも知れません。
実際のところそうなのか?
法医学者は法律に詳しいのか?
今回はこの点に触れていきたいと思います。
結論から言いますと、
『法医実務の中で法律に触れる機会は多いため、法医学医は"医師の中では詳しい方"とは言えるかも知れないが、法医学者の全員が全員、特別な訓練や勉強をしているわけではない。』
もっと端的に言うと、
『法医学者は法律の専門家ではない』
これがひとまずの答えになるかと思います。
詳しく説明していきます。
"法医学"という言葉を聞くと、一般の方の中には「法医学=法律+医学」
つまり「法医学者は医師の中の法律専門家なんだろう」
そう思っている人も少なくないと思います。
しかし、そのイメージは少し間違いかも知れません。
"法"医学とは言え、やはり根底にある重きがあるのは"医学"の方です。(参考記事:「法医学とは?」)
法医学医になるために、
・法学部を卒業していなければならない
・司法試験に合格しなければならない
なんてことは全くありません。
むしろ『医師免許を持っていなければならない』というのが条件です。
確かに、医学部の講義で"医師法"や"医療事故"といった医事法関連に触れる機会は、実際のところ法医学だったりします。
私自身も学生の頃、
・応召義務
・異状死届出
・無診察治療の禁止
・覚醒剤中毒患者の届出
といった法律関係の知識を法医学の講義の中で勉強しました。
しかし、それ以後に、実際に法医学に足を踏み入れてからも含め、法律学に関して特別の授業や講義を受けたわけではありません。
「これはいけない」と思って、個人的に法学初学者者向けの本をいくつか読んで勉強したくらいです。
おそらく法医学者の中で、法学を体系的に特別勉強をしている人の方が珍しいのではないでしょうか。(中には法律に詳しい法医学者ももちろんいらっしゃいますが)
ところが、法医実務上、やはり法律関係者と接する機会は臨床医と比べても格段に多いとは思います。
司法解剖なども、法律によって厳格に定められた手続きに則って行われるわけですし、実際に鑑定人として法医学者が裁判所へ出廷したりもします。
業務の中でも、警察官はもちろん検察官・弁護士・裁判官といった"法曹三者"にも当然お会いしお話します。
そういう経験を繰り返していると、法律の知識は少なからず増えてきたとは思いますね。(それが"使える"知識かどうかは別にして)
従って、『法医学医は、医師の中では詳しいかも知れないが、決して"法学者"なわけではない』と私は思っています。
実際問題として「法医学者にどこまで法律の知識が求められているのか?」というのもあるとは思います。
法医実務上は当然周りに(法曹関係者などの)法律の専門家がいるわけですし、そこで必要とされる法律知識は前述のように実務の中で学べます。
そもそも我々は法学者ではなく医学者なのですから、まずは医学知識が最優先事項になるでしょう。
法医学者は他人から法律相談を受けるわけでもありませんし、判決を下すわけでもありませんからね。
ただし、法医学者にとって法律の知識があって無駄ではないことは言うまでもありません。
臨床現場では実際に法律問題が出てくることも多くなってきましたし、法医学者がいわゆる"医療事故関連死"に出会う機会も近年は少なくありません。
だからこそ、余裕があるならそういった法律知識も知っていて損はしないと思いますね。
これは決して法医学者に限ったことはなく、臨床医にも同じことが言えると思います。
臨床医も法律の知識は持っている方が絶対に良いです。
なので、医学教育においても、何なら「もっと法律の専門家が医学生に法律をきちんと教えるべきだ」とすら思っています。
ということで、法医学者は実務上、法律に触れる機会は多いとは言えます。
なので、法医学者は法律について"ある程度知っている"ことは多いかも知れません。
しかし、学問として体系的に法律を学んでいるわけではないので、『法医学者は法律の専門家ではない』のです。
そこは勘違いしないようにする必要がありますね。