第113回医師国家試験 B問題 問45 [113B45]

113B45
67歳の男性.心停止の状態で救急車で搬入された.
現病歴:今朝6時頃,妻が寝室に起こしに行った際には返答があったが,1時間経っても起きて来なかった.再度呼びに行くと目を閉じたままで反応がないため,午前7時に救急車を要請した.5分後に救急隊が到着し,心停止と判断した.かかりつけ医には連絡せず,心肺蘇生を行いながら救命救急センターに搬送した.
既往歴:20年前から糖尿病,高血圧症と診断され,内服治療を続けていた.
生活歴:喫煙歴は65歳まで20本/日を45年間.飲酒は焼酎2合/日を週3日.
搬入時に行った静脈採血の結果は以下のとおりであった.
検査所見:血液所見:赤血球322万,Hb 10.1g/dL,Ht 31%,白血球8,800,血小板11万.血液生化学所見:AST 92U/L,ALT 78U/L,尿素窒素82mg/dL,クレアチニン9.8mg/dL,血糖228mg/dL,Na 142mEq/L,K 9.8mEq/L,Cl 112mEq/L,Ca 8.6mg/dL.CRP 2.3mg/dL.
院内救急コールで駆け付けた内科および外科病棟当直医が,救命救急センターの研修医,指導医とともに心肺蘇生を継続した.その後も心拍は再開せず,患者の死亡が確認された.かかりつけ医に連絡をとると,この患者は糖尿病腎症による慢性腎不全のため,近々人工透析の導入予定で,最終受診は1週間前であった.
死亡診断書を交付できないのはどれか.

a 死亡確認を行った内科病棟当直医
b 救命処置を補助した外科病棟当直医
c 電話で死亡報告を受けたかかりつけ医
d 救命処置を行った救命救急センターの指導医
e 救命処置を行った救命救急センターの研修医




正答は【c】です。


[a][b][d][e] 正しい(=死亡診断書を交付できる?)。死亡診断書を交付できるのは「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」です。本事例では、来院時心肺停止であり、そのまま心拍が再開せずに死亡確認に至っていることから、個人的には「死亡診断書の交付でよいのか?」については議論の余地があると感じます。詳細は後述します。

[c] 誤り(=死亡診断書を交付できない)。最終診察から24時間以上経過しているため、死亡診断書を交付するには、死亡後改めて診察しなければなりません。問題文には死後診察を行った記載はないため、かかりつけ医は死亡診断書の交付はできません。医師法 第20条+但し書き「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

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CPAOA患者の死亡確認後の対応に関する臨床問題です。

救急医であれば"あるある"なシチュエーションでしょうね。

問題自体は、[a][b][d][e]は搬送先の救急対応医で、[c]だけ明らかに選択肢として異質ですので、正答はすぐに分かったとは思います。

ですが、前述のように「搬送先救急対応医が交付するのは"死亡診断書でよいのか?"」という疑問がわいてきます。

結局のところ、明確な結論は出ませんが、私は「本事例の救急対応医は"死体検案書"を交付すべき」だと思っています。



何度も書いてきていますが、死亡診断書を交付するパターンは『自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認められる場合』です。(→それ以外は全て"死体検案書"の交付です)

従って、死亡診断書の交付では、

① 自らの診療管理下にある患者である
② (その患者が)生前に診療していた疾病に関連して死亡したと認められる

この2基準を両方ともクリアする必要があります。


今回の事例を検討していきます。


まず①[自らの診療管理下にある患者である]の基準です。

"自らの診療管理下"というキーワードは、以前のまでは"診療継続中"という表現がなされていました。

"自らの診療管理下"とは、要は「診療が引き続いている状態」だと私は認識しています。

本事例はおそらく初診であり、また心肺停止で運ばれてそのまま心拍が再開することなく死亡確認が行われています。

「『死亡確認するまでは生きている』とみなして(※推定でなく)、初診の診療を行っている最中に亡くなったのだ」という捉え方もできなくもないですが...

普通に考えて若干無理がある気がしますよね。

従って、基準①の時点でグレーな印象がします。


続いて、基準②[その患者が)生前に診療していた疾病に関連して死亡したと認められる]を考えていきます。

前述のように、本事例の患者さんは、死亡確認こそ行われていませんが、病院到着時には死亡していたと考えるのが普通です。

そうなると、少なくとも救急対応医は、(初診であるなら)生前に当該患者さんを診療しようがありません。

ですので、前述の"みなす論"に立たない限り、"生前に診療していた疾病"という基準②にも引っかかります。


ただ、確かにこの基準②にある"生前に診療していた〜"の主語は誰なのか?ははっきりしません。

『"自ら"が生前に診療していた疾病に関連して死亡したと認められる場合』なのか?
『"自分以外の医師も含む医師全般"が生前に診療していた疾病に関連して死亡したと認められる場合』なのか?
→つまり"自分以外の医師が生前に診療していた疾病"でもよいのか?

これについては明確な答えがありません。(素直に読めば、普通に前者だと私は思いますが...)


もし後者の「"自分以外の医師が"生前に診療していた疾病に関連して死亡した場合」でもOKなのであれば、

本事例では、かかりつけ医にきちんと確認していますし、最終的に「(そのかかりつけ医が生前に診療していた)"糖尿病腎症による慢性腎不全"が死因である」と救急対応医が判断するのであれば、死亡診断書の交付し得るかも知れません。


いろいろ書いてきましたが、個人的にはやはり「本事例の救急対応医は"死体検案書"を交付すべき」だと思いますね。

問題回答上はここまで突っかかる必要は全くありませんが、こういったシチュエーションは医師になってから十分あり得ます。

ですので、皆さんにも一度じっくり考えてみてほしいですね。



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