法医学とは何か?

記念すべき(実質)第1回目の記事テーマは...【法医学とは何か?】です。

法医学とは、

応用医学の一分科。医学を基礎として、法律的に重要な事実関係の研究・解釈・鑑定をなす学問。犯罪の解明に応用され、死因・犯行時刻の判定や指紋・血液型・DNAなどによる個人の同定および親子鑑定などを扱う。犯罪医学・裁判医学ともいう。』※広辞苑より


我らが日本法医学会は、

医学的解明,助言を必要とする法律上の案件,事項について,科学的で公正な医学的判断をくだすことによって,基本的人権の擁護,社会の安全,福祉の維持に寄与することを目的とする医学

と定義しています。

つまり『法律上の要請に対して医学的な判断・助言を行うことによって、社会に貢献していく医学』といったところでしょうか。

法律から求められ→それに対して医学的に応え→それによって社会へ貢献していく。


医学全般の中での位置づけをみてみるとこれがまた複雑で、定まった定義はありません。

単純に基礎医学と臨床医学の2つに分けると、実際の治療を行わないのでざっくりと"基礎医学"の方に分類されたり、
基礎医学・臨床医学・社会医学の3分類でわけるなら、"社会医学"に分類されたりするようです。

大学の講座でみても実に様々です..。


ある法医学の教科書では、

医学全体を基礎医学と応用医学の2分類に分け、そのうちの法医学は後者(応用医学)に該当して、さらにその応用医学を細分化し、臨床医学や予防医学等に並んで独立した"法医学"がある』と記載されています。※前述の広辞苑の記載に類似

これは『法医学はあくまで応用医学である。』というのを強調しているのでしょう。

もちろん法医学でも基礎的な研究も行ってはいますけどね。


皆さんのイメージはいかがでしょうか?

個人的には普段から『3分類した中の"社会医学"です』というのが1番イメージしやすいかなと思ったりしています。



さて、そうした"法医学"ですが、よく経験するのが、臨床医学の一分野である"病理学"との勘違いです。(同じ医師にすら間違われることも...)

確かに米国では、実際に病理医のサブスペシャリティ(2段階目)に"法医学"があるようですし、両者の区別は難しいと言えるのかもしれません。

どちらも『病気を診断・判断する』という点は同じですから。


では、実際のところ何が違うのか?と言われると...やはり"メインでみる対象が違う"という点です。

病理学:病院の患者さん
法医学:それ以外

ざっくりとこういうイメージです。


そして法医学では、

・自宅で原因不明に亡くなっていたご遺体
・交通事故で亡くなったご遺体

など、いわゆる"警察が関与したご遺体"が対象になってきます。

これは必ずしも事件性がある(犯罪が関係する)ものに限る、というわけではありません。

例えば法医学の中でも監察医制度においては、その対象が事件性のないご遺体を扱います。

ですので、安直に『法医学=事件・犯罪』というのは厳密に言えば少し違うかなと思います。


「病院で亡くなったら病理学(病理解剖)」というイメージにも例外があります。

例えば、病院にかかっていても、突然原因不明で亡くなったり、殺人や事故で亡くなった場合などでは、法医学の領域が扱うことになります。

また医療事故が疑われるケースなどで、どちらが扱うべきなのか?といったことなどはまだまだその線引きが明確でないところもあります。


小難しいことを書きましたが、結局のところ【法医学の対象は、病院の患者さん以外で警察が関与したもの】というイメージで良いのではないでしょう。



続いて、法医学の更なる分野についてです。

皆さんが法医学と聞いてイメージするのは、"解剖"や"DNA鑑定"などだと思います。

しかし、法医学の中には、細かくいろいろな分野があります。

・法医病理学:主に解剖を扱う
・法医中毒学:中毒や薬物などを扱う
・法医遺伝学:DNAや遺伝子関係を扱う
・法医画像学:死後の画像診断学等を扱う

...などなど。

他にも、死後のご遺体に付く昆虫から死亡時期を推定したりする"法医昆虫学"や、歯科領域における法医学である法医歯科学、虐待における傷の鑑定などを行う"臨床法医学"などもあります。

最後に挙げた臨床法医学は、児童虐待が大きく問題となってきている近年、しばしばメディアに取り上げられたりしますし、また法医学の分野でも「生きている人」を対象としている点は特筆すべき点ですね。(参考記事:「臨床法医学」)

そうです。法医学は生きている人も対象になるんですよ。

法医学は故人の人権等の観点はもちろんありますが、そもそも生きている人に向けて、「ご遺体から学ばせていただいたことを社会に還元していく...」そういった姿勢がありますからね。


法医学は、臨床医学のように臓器別にスパッとわかれることはなく多分野にわかれ、その範囲は極めて広いです。

そして、それを担うのは法医学医(医師)だけでもなく、いろいろな職業の人間が協力して業務を行っています...がその話はまたの機会に改めて書きたいと思います。



法医学とは何か?

なかなか一言では言えない奥深さがありますね。