2021年10月14日発売 [900円+税] 京阪奈情報教育出版 (出版社URL)
『命に寄り添う法医学 ~「愛」と「生」と「死」と~』 (著:羽竹勝彦)
近年、テレビドラマなどで世間の認知度が高くなった法医学。
法医学者の監修によりしっかりとした内容になってはいるが、誤解を生むような場面も多々あるのが現状。
また、新聞記事や報道番組などで殺人事件が報道されるたび法医学の知識があれば、より興味をもって深く理解できるのではないか...。
そんな身近な疑問に答える一般書がほとんどなかった。
「多くの死者との出会いによって人生とは何かという問題に向き合う一法医学者のつぶやきから、生や死について考えるきっかけになってもらえれば...」と著者は語る。(※出版社サイトより)
この本を読み終えたので、感想を書いていきたいと思います。
法医学者として約40年間過ごしてきた著者の想いのこもった素晴らしい本でした。
最近レビューしてきた本が、法医学の諸問題を取り上げた比較的お堅い本であったのに対して、
今回の本は著者の経験を踏まえて所感や想いといった主観的な記述も多く、また違った法医学本の良さを改めて感じましたね。
前半では、あらすじにもあるように、
「法医学では何か?」
「法医学とは何をしているのか?」
「法医学は社会にどのように関わっているのか?」
などといった『基礎的な知識』を解説しています。
この点は確かに一般的な法医学の本でも得てして省略されてしまうところでもあるので、そこを改めて解説している点は法医学に馴染みのない人にとっても良いのではないでしょうか。
後半は、自験例を交えながら、それに対して著者が感じたことなどが、決して堅い文章ではなく、一般の方にも理解できるような平易な言葉で書かれています。
孤独死や虐待、突然死、自殺など社会生活にも関わってくるようなテーマが中心に話は進んでいきます。
そして"命に寄り添う"や"愛・生・死"といった法医学を超えるようなテーマについても、ご遺体を通して法医学者としての考えや想いが描かれています。
ですので、理論詰めされた本のような読みにくさは殆ど感じませんでした。
法医学者である私からすると、ある程度基礎知識はすでにありますので、むしろ後半のような主観的な記述に魅力を感じてしまいますね。
熟練した法医学者たちは、、、
解剖でどのようなことを考えているのか?
法医学において何を苦労しているのか?
ご遺体から何を感じ、そして学んでいるのか?
そのような視点から私は読み進んでいきました。
ちなみに、個人的には検視官や検事のつぶやきと称したコラムも大変興味深かったです。
ということで、ここ最近で出た本の中ではお堅い感じではない読みやすい本でした。
本自体は新書版(細長いサイズ)かつ全210ページと薄めの本ではありますが、文字はやや小さめなので、思っているよりも読み応えのある本です。
興味のある人は是非一度お手元に取って読んでみてください。