今回は法医実務向けな記事です。
頭蓋骨の"解剖学的名称"を画像とともにお示ししていきます。
骨を含め身体の臓器に関して、専門家の間で議論するには"共通認識"が必要になります。
"心尖部"と言えば「心臓の下側先端部」がイメージできなければなりませんし、"肝床部"と言われれば「胆嚢が引っ付いている肝臓の裏面」が想像できなければなりません。
ブログではひとつひとつ文章で説明すればよいですが、専門家の白熱する議論の中でそれをしていてはせっかくの熱が冷めてしまいます。
そのためにも、端的に表現できる専門用語が必要になるわけですね。
こういった位置名称は、主に"解剖学的な特徴点"に付けられることが多いです。
骨は独特な構造が多々あるため、それが特に顕著です。
そして、その解剖学的特徴点ひとつひとつに名前が付けられているわけですね。
医学生低学年の頃は、骨学でこの名称を覚えるのに必死のことでしょう。(がんばって!)
何が大変かというと、それが英語だけでなく"ラテン語"で表現されることもあるからだと思います。
今回ご紹介する頭蓋骨も"ラテン語名"がとても多いです。
ひとつひとつどこを指すかは成書を読んでいただくことにして、パパッと画像でみてもらおうと思います。
ブレグマ、グラベラ、ナジオン、プロスチオン、インフラデンターレ、ポゴニオン、グナチオン、ゴニオン、オピストクラニオン、オイリオン、チギオン。
何故これが法医実務で必要になるか?と言うと、『これら位置からの距離が性別や年齢の推定に使用されることがあるから』です。
老若男女で差があることは皆さんも常識的に知っていると思います。
当然骨にもその差が出てきます。(参考記事:「骨の年齢推定」「骨の性差」)
しかし、専門家が骨を見てそれらの差を読み取っても、「何となく男性かな」「何となく高齢者だろうな」ではいけません。
なんとかして客観的指標を以て説明したいのが法医学者のサガです。
そのために使用されるのがこの『"解剖学的名称"の距離(位置)』です。
例えば、「男性の頭蓋骨の高さは高い(≒○○cm以上である)」と言われているとしましょう。
では、"頭蓋骨の高さ"ってどこを指すのでしょうか?
同じ骨でも計測者によって数字が変わってしまっては意味がありません。
そのために解剖学的な特徴点に名称を付けます。
これによって誰が計っても同じ部分を測定するができるのです。
法医学において"頭蓋骨の高さ"は図の『バジオンとオピストクラニオンの距離』を指します。(ちょっと"高さ"のイメージとは違いますかね?)
ちなみに"頭蓋骨の幅"は『左右オイリオンの間の距離』です。
このような距離を測定していろいろと数字で示していくのですね。
ただ、身長を考えても分かるように「女性よりも男性は身長が高い(人が多い)」とは言えますが、「身長が高いから男性である」わけでは決してありません。
実際に「○○cm以上なら男性」とは言えませんよね。
身長が低い男性もいれば、身長が高い女性もいるわけですから。
これと同じように、頭蓋骨の解剖的位置を測定しても、それで100%年齢性別が分かるのではないのです。
あくまで「男性らしい」「高齢者らしい」程度のことしか実際は言えません。
数字で表す"怖さ"がここにあります。
性別に関しては、最近はDNA配列を確認することである程度確定的なことを言えるようになってきました。
ただ年齢については...まだまだこれからの分野と言えます。
一方で、近年は死後画像検査が浸透し、こういった骨の解剖学的特徴点の位置や距離が容易に測定できるようになってきました。
老若男女に関するいろんな論文がどんどん出てきています。
大変"熱い"分野と言えますね。