110G65
63歳の男性.上行結腸癌の経過観察と腹部造影CT検査のため来院した.
現病歴:1年前に上行結腸癌に対して右半結腸切除術を受けている.術後の経過観察のため来院し,外来診察,採血検査および腹部造影CT検査を受けた.
既往歴:高血圧症に対し内服治療中.薬物アレルギーはない.
生活歴:酒店経営.喫煙歴はない.飲酒は機会飲酒.
家族歴:父親は心筋梗塞で死亡.母親は膵癌で死亡.
検査所見:血液所見:赤血球309万,Hb 10.4g/dL,Ht 32%,白血球4,200,血小板16万.血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.8g/dL,AST 34IU/L,ALT 40IU/L,尿素窒素21mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,Na 139mEq/L,K 4.4mEq/L,Cl 107mEq/L.
その後の経過:腹部造影CT検査の直後から,全身の瘙痒感と呼吸困難が生じ,声がかすれてきた.
症状出現時の現症:意識は清明.体温36.3℃.脈拍88/分,整.血圧80/68mmHg.呼吸数24/分.SpO2 92%(room air).四肢の伸側に膨疹を認める.眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない.頸静脈の怒張を認めない.心音に異常を認めない.胸部全体にwheezesを聴取する.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.下腿に浮腫を認めない.
その後の経過:適切な処置をした後,肝切除術が施行された.3年後,多発性の転移性肝腫瘍が再発した.患者と家族は積極的な治療を望まず,自宅で過ごすことを希望したため訪問診療が開始された.今朝になって患者の意識がなく呼吸が停止している状態であると,家族から連絡があった.昨晩は意識があり,意思疎通可能であったという.担当医として駆けつけたところ,瞳孔は散大固定で,対光反射の消失,心停止および呼吸停止を認め死亡を確認した.
認める可能性が低いのはどれか.
a 死斑
b 硬直
c 腐敗
d 体温低下
e 角膜混濁
正答は【c】です。
[a] 誤り(=認める可能性が高い)。「今朝になって〜昨晩は意識があり〜死亡を確認した」ということなので、少なくとも"死後1日以内"(→ 半日程度か?)というところです。"死斑"は死後数時間で出現するため、本事例で"死斑"は認める可能性が高いと言えます。
[b] 誤り(=認める可能性が高い)。"死後硬直"は死後数時間で出現し、少なくとも数日間は残存します。従って、"死後半日程度"の本事例では、"硬直"を認める可能性は高いです。
[c] 正しい(=認める可能性が低い)。環境温や状況にも寄りますが、腐敗の初期段階と言える"緑変"であっても死後数日以降に認められることが多いです。そのため、"死後半日"である本事例においては、他の選択肢の所見と比べて"腐敗"は認められない可能性が高いと言えます。
[d] 誤り(=認める可能性が高い)。"体温低下"は死亡した直後から起きます。他の早期死体現象の中で最も早く認めると言え、本事例でも当然認められます。
[e] 誤り(=認める可能性が高い)。"角膜混濁"も、他の早期死体現象と同様、せいぜい数時間程度には認められることが多いです。従って、本事例でも混濁の程度の差はあれど十分認められると考えられます。
3連問題の最後の問題です。
問われているのは"死体現象"(特に早期死体現象)についてです。
こういった問題では、まず死後経過時間を推定する必要があります。
問題によっては各所見からきちんと推定していかなければなりません。(参考問題:103G42)
ですが、この問題は"推定"というほど大層でもなく、文章から「死後経過時間は半日程度」ということが簡単に読み取れます。
"死後半日程度"(→ 死後そこまで時間が経っていない)というのを念頭に問題を読んでいきますと、、、
明らかに選択肢[c]の"腐敗"だけが"晩期死体現象"に分類される所見なので、それだけですぐに回答できてしまいますね。
よっぽど高温環境下などの条件でなければ、"腐敗"はやはり数日以降と考えるのが妥当でしょう。
"晩期死体現象"には、腐敗の他、リソソームを始めとした自身の持つ酵素による"自家融解"が有名です。(参考記事:「腐敗・自家融解」)
両者はよく混同されるので、一度しっかりと勉強してみてくださいね。