行政解剖に遺族の同意・承諾はいらない (承諾解剖との違い)

今回のテーマは「行政解剖と承諾解剖の違い」です。

医師の中でも両者を一緒くたに考えているドクターはいます。

そもそもの"行政解剖"や"承諾解剖"については別記事をご参考ください。(参考記事:「行政解剖・承諾解剖」)



結論は、

行政解剖:遺族の同意・承諾は"不要"
承諾解剖:遺族の同意・承諾は"必要"

ここに尽きます。

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詳しくみていきましょう。



【行政解剖には遺族の同意・承諾が"不要"】


これはよく勘違いされています。

行政解剖の実施には遺族の同意は"不要"です。

つまり遺族が拒否しても行政解剖は行われ得ます。

ただし実際は遺族感情の観点から、原則遺族の同意を得た上で行われることが多いです。


行政解剖の実施要件は【検案によっても死因の判明しない場合】です。

この場合の死因を判断するのは"監察医"ですので、要は『監察医の判断』ということになります。

警察や検察の要請や裁判所の許可状なども関係ありません。(※変死体の疑いがある死体は検視やその他法医解剖を優先します)

それくらいある意味で「監察医の権限は強い」わけですね。



【承諾解剖には遺族の同意・承諾は"必要"】


これは"承諾解剖"という名前からも分かるとは思います。

明文化されていませんが、実施要件は原則【遺族の依頼】です。

ですので、当然にして遺族の同意承諾は存在するわけですね。

『遺族の依頼』で行われますので、費用負担は遺族になってしまいます。


"承諾解剖"は「警察からの(解剖)要求に対して遺族が"承諾"して行う解剖」というイメージを持っている人が多いと思います。

しかし、本来は『遺族からの依頼』であるはずなので、逆を返せば『遺族が拒否すれば行われ得ない解剖』です。

ですので、遺族が不同意なのに承諾解剖が行われていればそれは大問題です。

解剖費用も遺族負担なんですから。

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もしそういった場合に、強制力を持って(警察が)解剖を行いたいのなら、きちんと手続きを踏んで調査法解剖や司法解剖にしなければならないです。(参考記事:「司法解剖・調査法解剖」)



以上の通り、両者は実際は全く違います。

それでも混同されるのは、『非監察医制度地域において、"承諾解剖"が行政解剖と同じように運用されているから』だと思います。


監察医制度が導入されているは、東京都・大阪市・神戸市・名古屋市の4都市のみです。

それ以外の地域では、(強制力を持った)行政解剖をしたくてもできません。

なので、やむを得ず遺族の同意を必要とする"承諾解剖"が行政解剖のように運用されていたというわけですね。


『なぜこれが問題になるか?』というと、

「遺族が遺体死亡に関与している可能性がある場合でも、その遺族の同意が必要になるから」です。


つまり、もし遺族が死亡に関与していても、その遺族が拒否したら解剖ができないわけです。


本来犯罪が疑われるのなら司法解剖をすれば良いのですが、この『犯罪を疑う』という程度が微妙なケースでは困ってしまいますよね...。

また警察からすると、裁判所を通す司法解剖は(行政解剖に比べると)比較的ハードルが高いんです。

なので、当時現場では苦労されていたことかと思います。


昨今は"調査法解剖"(強制力あり)という制度が始まったので、この問題も解決しつつあります。

それでも地域によって調査法解剖率には差があり、まだまだ課題も多いと言われています。

今後解剖制度が正しく運用されていくよう期待したいですね。


ということで、「行政解剖と承諾解剖の違いは"同意・承諾の要否"」でした。

皆さんもせっかく学ぶのなら正しい知識をつけていきましょうね。