法医学は文系である?

今回は『法医学は本当に理系なのか?』というテーマについて書いていきたいと思います。

"法医学"は"医学"の一分野であり「受験においては"理系"である」ということは明確に言えるでしょう。

しかし、"法医実務"という観点から考えると、必ずしも「完全な理系である」とは言えない状況もあると感じています。


今回は『法医学における文系要素』をみていきます。

私自身が普段感じていることなので、小難しい感じでなく気軽に読んでいただければと思います。



【法医学における文系要素】

・社会医学である
・法律が絡んでくる
・社会制度の知識が必要である
・ご遺族感情の理解も必要である
・文系職(特に法曹)への橋渡しの役目もある


詳しくみていきましょう。



『法医学は"社会医学"である』


法医学は社会医学の一部であるとする分類法があります。

確かに法医学は、臨床に比べると疾患だけではなく、社会環境などといった社会的要因を加味することが求められます。

これは人の流れや動きを考慮する必要のある"衛生学"や"公衆衛生学"といった分野でも同じことが言えますね。

従って、法医学の研究をみても、がっつり理系な研究だけでなく、"死因統計"や"死因究明システム"を用いた文系な研究も数多くあります。

こういった点は、他の"医学"の中でも文系色の濃い分野と言えます。



『法医実務には法律が絡んでくる』


"法医学"は名前にも"法"とついているくらいですから、当然法律が関係してきます。

・法律の知識がないと解剖できない
・法律を知らない結果が判断できない

というわけでは決してありません。

むしろ「法律のことは当然にして法律家に聞く・法律家が発言するべき」と私自身は思っています。

ただし、特に鑑定や証人出廷などでは、法医学者が法律知識を持っているとスムーズに進む気がしますね。

法医学者の周りには法律家がたくさんいますからね。

「他人に教授できるくらい精通しているべきである」とまでは私は思いませんが、
「最低限の法律知識は持っているべきである」とは思いますね。



『社会制度の知識が必要である』


法医学では"社会的弱者の死"や"孤独死(孤立死)"などにも頻繁に出会います。

そういった経験しつつも、淡々と死因究明して終わりではなく、「その経験や知見を外にアウトプットし社会を良くすること」も法医学者に求められている気がするんです。

そのためには、人を"ヒト"としてだけみるのではなく、やはり"人"は"人"としてみるべきなんだと思うんですよね。

この要素は"文系的視点"と私は感じたりします。



『ご遺族感情の理解も必要になる』


これは"法医学"に限らず"医学全般"に言えることだと思います。

法医学でも、亡くなったご遺体だけではなく生きているご遺族にも接します。

そういったご遺族にどういった対応をすべきなのか?どういうサポートができるのか?というのを考えるのも法医学の一分野だと思うんですよね。

このような視点ができるのも"法医学の裾野の広さ"と言えるのではないでしょうか。



『文系職(特に法曹)への橋渡しの役目もある』


法曹界の方々の考え方はやはり医学者の視点とは全く違います。

時に"法医学者"はその両者の調整役を担うこともあります。

そういった際に、決して"医学側"だけに寄ってしまうのではなく、"法律学側"にも近い存在であるべきかも知れません。



以上、5つの項目を挙げてみました。

今更ですが、『そもそも何を以て文系なのか?理系なのか?』というのは大いにあると思います。

学問上においては、法医学は"理系"に分類されることがどうしても多く、実際に理系として認識・存在されています。

しかし、法医実務の上で求められるのは、決してそんな単純明快に分けられるものばかりではなく、文系も含めた総合的な知識・考え方・力なのだと思います。


受験の上でも、理系に分類されてしまっているので、理系を避けて通る訳にはいきません。

ですが【文系力を持った法医学者】が活躍できるのも"法医学の良さ"だと思います。