輪ゴム症候群 (rubber band syndrome)

今日は趣向を変えて、過去に出会った個人的に思い出深い疾患について書きたいと思います。

それは"輪ゴム症候群"です。

皆さんはこの病気を聞いたことがありますか。

これは別に法医学で有名な病名なわけでもないのですが、皆さんにも知ってほしくて取り上げようと思います。


英語で"Rubber Band Syndrome"というのが正式名称のようです。

正式名称かは分かりませんが、日本語では"輪ゴム症候群"となりますかね。(なので知らなくて当たり前...笑)

要は『輪ゴムを付けっぱなしにしていたら体内にめり込んでいった』という現象です。

画像をお出しできないのが残念ですが、下記のリンク先にまさに私がかつて経験したものに似た症例報告がオープンアクセス(無料)でありましたので載せておきます。

Amemiya, Erica, et al. "A Case of an Elderly Patient With Rubber Band Syndrome." Journal of Hand Surgery Global Online (2021).
URL:https://doi.org/10.1016/j.jhsg.2021.07.005


この論文のように主に手首に掛けておいた輪ゴムが時間経過とともにめり込んでしまうんですね。

めり込んでしまうと、手首であればそこに神経や血管・リンパ管がありますから、それがめり込んだ輪ゴムによって締められることで麻痺や浮腫が出てしまうようです。

治療は基本的に手術による除去だそうで、症状が出る前の除去がオススメされています。


ゴムは幅の広いシリコンゴムのようなものではなく、スーパーでパックの蓋を閉めるのに使用されるような一般的な細いゴムです。

wagomu.jpg


場所は殆どの症例が手首です。

「どれくらい着けていたらめり込むのか?」というのが1番気になると思いますが、これははっきりしません。

小さい子供(数ヶ月〜数歳)の事例を見ると、大体平均して数ヶ月〜半年程度のようです。

別の報告では早ければ"数日"なんて記載もあります。(※どの程度めり込んだのかは不明)

輪ゴムのキツさなんかも関係しているのかも知れませんね。


・認知症でバンドを着けていたことを忘れてしまっていた
・赤ちゃんなので自分で外せなかった
・麻痺障害があって着けたままの状態が続いてしまった

などがリスクとして考えられるようです。

通常痛かったら自分で外しますからね。



私が経験した症例は、普通のおばあちゃんだったと記憶しています。

特にリスクもなかったような...。(遠い記憶なのではっきりせず...)

ただその部分は全然赤くもなってないし、輪ゴムがめり込んだ部分の全周だけ凹んでたんです。

「リストカットにしては全周性だし、うつ病とかもないしなぁ...」と。

それでさらに調べると、手首腕の中から輪ゴムが出てきて...。(意外に伸縮性も保たれていました)

結局この"輪ゴム症候群"は当然死因にはならないので、特に解剖結果には直接関係しかなったのですが、当時は駆け出しだったこともありびっくりしましたね。

よくうちの母親も手首に輪ゴムをしたりしてたので、「気をつけてもらわないとな」と当時思ったのを今でも覚えています。



『世の中にはこういう疾患もある』

あまりメッセージ性はありませんが、今回はそんなお話でした。


法医学では、死因にあまり関係しないものには注目されません。

それでも、今回のように法医学者の頭には強烈に残っていたりするものも少なくはありません。

まだまだ経験の浅い自分でも、まだまだ記憶に残る症例はたくさんあります。

私ももっともっと経験を積めば、そんな経験を集めて本を書きたくなるのでしょう...なんて。


皆さんも輪ゴムを長期間付け続けるのはやめましょう。