法看護[フォレンジック看護]という言葉を知っているでしょうか?
それに関連して、法医学における看護師 "フォレンジックナース"という職業があります。
今回はこの"法看護"について書いていきたいと思います。
法医学におけるコメディカル・パラメディカルと言えば、臨床検査技師や薬剤師のイメージが強いと思いますが、実は法医学においても看護師は活躍しています。
それが"法看護"[forensic nursing]です。
"forensic"とは日本語で"裁判の"という意味です。
ある論文には、"法看護"とは、
『ドメスティック・バイオレンス、児童虐待、高齢者虐待、性暴力などの被害者から、犯罪の法的証拠を科学的に採取・保存し、被害者の人権を守りつつ、適切な看護ケアを行うこと』
と記載されています。(Journal of UOEH, 34巻3号, p271-279より)
※日本フォレンジック看護学会という団体もあるそうですが、こちらのHPには明確な定義が載っていなかったので、上記論文から引用させていただきました。
犯罪被害者はとても深い傷を負っています。
例えば、レイプ被害者が警察からお話を聴取される際、何度も同じ話を聞かれるのは被害者にとってとてもストレスがかかります(≒セカンドレイプ)ので、こういった専門の看護師がサポートする、という活躍の場が考えられます。
被害者の気持ちに寄り添いながら、専門看護師が捜査や裁判で必要なことを1回の聴取で収集しきる。
そして、その後も被害者のケアにも関わっていく...と。
ただ現実的には、証拠採取等や聴取についてはやはり警察の介入の下で行われるので、なかなか実際の活動となると難しさもあると思います。
なので『総合的・全人的な犯罪被害者の支援』というが法看護の現実的な活動の場になると言えるのかも知れません。
法医学分野においては、解剖領域というよりは"臨床法医学"や"法科学"との関わりが強い分野と言えます。
"臨床法医学"とは『生きている人を直接対象とする法医学』でした。(※参考記事)
我々法医学者は、被害者の身体の痣を鑑定し、その痣が虐待によるものかどうか?という意見を求められることがあります。
そのために、実際の被害者の方に痣を見せもらい、写真を撮らせてもらったり、サイズを計る必要があります。
そういった状況において、法看護師の先生が被害者の気持ちを汲みながらそれらの痣・傷のデータを収集していくというわけですね。
また別の活躍の場として、"解剖後の遺族のケア"があります。
法医解剖は同意を必要としないものも多く、場合によっては家族が否定的であっても解剖せざるを得ないこともあります。
そういった経緯での解剖は遺族にとってストレスになるため、その遺族のケアの担い手として法看護師が活躍するというケースもあるようです。
実際に、一部の法医学教室には、看護師の免許を持った法医学者が在籍しています。
少し話は逸れますが、個人的に、法看護師の役割・役目というのは、災害被害者の遺族支援における看護師の役割にも似ているなとも感じました。
大切な人を亡くした遺族は深く傷つきますが、そこに災害という特殊性(→誰が悪いというのがない)がさらにのしかかることで、遺族は大きなストレスを受けます。
そこでも遺族の気持ちに配慮した医療従事者の必要性が出てきます。
実際に災害死亡者の遺族のケアを"災害直後"から行う"DMORT"という専門チームがあるんですよね。
詳細が気になる方はぜひ"DMORT"で調べてみてください。
こちらもまた別の機会にきちんと記事として書きたいと思います。
話を戻しますが、やはり看護師さんの強みは『careのプロフェッショナル』という点だと思います。
『医師は"cure"で、看護師は"care"である』
という言葉がありますよね。
Cure:治療
Care:お世話
単に病気や傷を治すだけなく、『全人的な支援を行う』という看護師としての本質が"法看護"にも活かされていると思います。
現在私の在籍する法医学教室に看護師さんはいません。
全国的にも看護師が在籍している教室はまだまだごく一部に限られていると聞きますし、この法看護はメジャーだとは言えない状況です。
それでも最近は臨床法医学も注目されてきていますし、この法看護も今後広く浸透していくことを期待しています。