心臓急死である"致死性不整脈"とともに解剖だけで指摘が困難な病死があります。
それが今回のテーマである"てんかん"です。
両者で共通するのは『どちらも異常な電気活動に起因した死』と言えます。
今回はそのうち"てんかん"について書いていこうと思います。
【てんかん】:脳神経細胞の異常な興奮・電気的活動により痙攣といった症状を起こす慢性の中枢神経系疾患。
※繰り返すもの(つまり2回以上)を"てんかん"と言うので、1度だけの発作では"てんかん"とは厳密には言えません。
"てんかんによる突然死"のことを英語で[SUDEP](=Sudden Unexpected Death in Epilepsy)と呼んだりします。
それでは、法医学的にみていきましょう。
てんかんによる死亡の頻度自体は決して高くはありません。
海外の報告をみると、剖検症例のおよそ数%と言われています。
それでは、何故そんな頻度としては高くない"てんかん"が法医学の中でも注目されているのか...?
それは、冒頭に書いたように、『"てんかん"は解剖で指摘が困難である』という法医学的な難しさをはらんでいるからです。
不整脈でも言えるように、電気的活動の異常を解剖(および顕微鏡検査)からいうのはかなり難しいんですよ。
臨床医学では、
・本人への問診
・痙攣時の目撃情報
・脳波検査
・血中乳酸値の上昇
などから診断の糸口を見つけていくことでしょう。
しかし、法医学の現場ではこれらがどれも得られないことが殆どです。
だからこそ、今まさに世界中の法医学の研究者によって"不整脈"や"SUDEP"について盛んに研究が行われているのですね。
では、「法医学医はお手上げなのか?」と言われるとそうではありません。
「てんかんが起きたこと」を明確に証明はできなくても、「てんかんが起きやすい状況であったこと」を医学的に指摘することは可能です。
・既往歴
・内服薬
・死亡時の状況
こういった項目は見逃すことなく調べます。
『既往歴』
てんかん自体の既往を確認すべきなのは言うまでもありません。
それに加え「てんかんを起こしやすい病歴がないか?」を調べることが重要です。
例えば、救急で有名な【AIUEOTIPS】などがありますよね。
それ以外にも、脳卒中や脳血管奇形、脳腫瘍、髄膜炎...いろいろあります。
それら疾患がないか?というのは常に医学的に念頭に置いておく必要があります。
『内服薬』
こちらも「てんかんに関する内服薬はないか?」というのがてんかんの既往を知る上でも重要です。
そして、てんかん突然死とは直接関係はありませんが、そういった内服薬がある場合は"てんかん治療薬による中毒死"というのも考えなければなりません。
てんかん治療薬は他の薬剤に比べ安全域がやや狭めであり、また他の薬剤との相互作用に注意が必要なものもあります。
このあたりも医学知識がなくてはなりません。
『死亡時の状況』
"死亡の状況"に関しては、正直なところ何でもありです。
・安静時
・睡眠時
・入浴時
様々なシチュエーションで起こり得るため、むしろその場面に関連した別の死因でないか?というのに注意しなければなりません。
→ 例えば、てんかん患者さんがお風呂の中で見つかった際、その死因が「溺死なのか?」「てんかんなのか?」という観点などです。
以上、ここでは3項目を挙げましたが、これらはあくまでも間接証拠であるため、安易な判断は控えなければなりません。
様々な疾患を除外した上でしか"てんかん突然死"は診断できません。
これら以外にも、下のような追加情報もあります。
『咬舌痕』:けいれん時に歯を食いしばって出来た圧痕。てんかん死亡者の25%程度にしか認められないので当てにはならない。
『遺伝子検査』:てんかんが起こりやすくなるとされる遺伝子型を有無を検査する。費用や検査機器が必要なため通常のルーチンでは行われない。
直接的な証明ができない以上、それ以外にできることはできる限りやる必要があると私は思っています。
"てんかん突然死"は比較的若年でも起こり得ます。
だからこそ「盛んに研究されている」という側面も"てんかん突然死"にはあるのかも知れません。
そういった研究が早く実を結ぶことを心から願っています。