103G44※採点除外
1歳5ヵ月の女児.保育所から心肺停止のため搬入された.3日前に感冒様症状で近医を受診し,抗ヒスタミン薬と鎮咳去痰薬とを処方されていた.保育所では当日の午前中は元気であったが,午後1時半に保育士が39℃台の発熱に気付き水分を摂取させ,父親が迎えに来るまで寝かせていた.午後4時に父親が迎えに来て患児を見たところ顔面蒼白に気付き,救急車を要請した.救急隊到着時には患児は心肺停止状態にあった.救急車内と病院とで蘇生を試みたが午後5時32分に死亡が確認された.気管挿管時に気管内に吐物は認めなかった.病院到着後に実施したインフルエンザ迅速検査でA型インフルエンザ抗原陽性であった.検視の結果,事件性はないと判断された.
担当医が行うのはどれか.2つ選べ.
a 司法解剖の説明
b 系統解剖の説明
c 承諾解剖の説明
d 死亡診断書の作成
e 死体検案書の作成
正答は【c, e】です。※だたし採点除外となっている。
[a] 誤り。本事例は検視の結果、警察が「事件性なし」と判断しています。従って、司法解剖の流れには載りません。またそもそも"司法解剖の説明"は担当医の役目ではないと私は思います。
[b] 誤り。系統解剖は「医学教育のために行われる人体の構造を理解するために行われる解剖」であり、対象となるのは「生前に自らの意思で献体を希望された方々」(=いわゆる"献体")です。本事例で生前に献体希望をしている旨の記載もないですし、死亡時に説明を行って同意を得るような解剖でもありません。
[c] 正しい。 本事例は、すでに(検案の上、異状死体として届け出た後に)検視を受けて「事件性なし」と判断されているため、病理解剖を行うことは可能です。死因がはっきりしないことから、担当医から病理解剖の説明を遺族に行うことは十分あり得ると思います。
[d] 誤り? 死亡診断書を作成するケースは「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」でした。本事例は、搬送後の診療の中で、A型インフルエンザ抗原陽性という結果を得ています。ですが、死因をその"A型インフルエンザウイルス感染"と判断しているのか?についてははっきりしません。このため、死亡診断書の作成が適切であるかは不明です。
[e] 正しい? 選択肢[d]の解説の通り、結局死因をどう判断しているのか?がはっきりしていません。もし、担当医が死が不詳と判断しているのであれば、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には該当しませんので、"死体検案書の作成"が適切であると思われます。
幼児の突然死後の対応に関する文章問題です。
本問はまさかの"採点除外"問題です。(法医学の医師国試過去問で唯一!)
某国試過去問サイトでは、一応[c]と[e]が正解になってはいました。
ですが、じっくり考えると、やっぱり"採点除外"でよいのかな?と個人的には思います。
その理由は上記の[d][e]の解説の通りなのですが、結局のところ「担当医は死因についてどう考えているのか?」がはっきりしない点がネックとなっています。
繰り返しになりますが、死亡診断書を作成するのは「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」なんです。
つまり、死因が判断できていないと、そもそも「生前に診療していた疾病に関連しているか?どうか?」なんて分かりようがないんですよね。
今回の問題では、搬送後にA型インフルエンザ陽性で、死亡の3日前には感冒様症状で別の近医を受診しています。
なので、もしかすると、搬送先担当医は「死因はA型インフルエンザウイルス感染である」と判断しているかも知れません。
その場合は、搬送後に診療も行っており、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」と言えなくもないですから、"死亡診断書"の発行でよいかも知れません。
ところが、わざわざ警察に検視依頼をして、選択肢[c]では病理解剖の説明を行わせようとしているわけです。
これを素直に捉えると「担当医は死因がはっきり分かっていないんだろうな」と推察されます。
死因が分からないのであれば、[e]の解説の通り、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には当てはまらないので、"死体検案書"の作成が正しいわけですね。
正直なところ、普通に考えれば受験生は[c]と[e]を選んだでしょう。
ですが、変に"感冒様症状"や"A型インフルエンザウイルス"などの情報を入れてしまったが故に、ややこしくなってしまったんだと思うんですよね。
そういう意味では、「採点除外でよかったのかな?」とも思いますが、
この問題で採点除外になるんであれば、他の法医学過去問にももっと採点除外になるであろう問題はありますからね。笑
どういう基準で採点除外が決定されるのかは私は知りませんが、そういう問題は国試から無くなってほしいものです...。