喉が渇くと飲むジュース。
しかし、それも過ぎたるは"毒"となります。
その病態の本質が"糖尿病性ケトアシドーシス"ないし"糖尿病性ケトーシス"です。
世間では俗に"ペットボトル症候群"や"清涼飲料水ケトーシス"と呼ばれることもありますね。(※俗称のため法医学では使わない)
今回はこのいわゆる"ペットボトル症候群"を取り上げたいと思います。
『ペットボトル症候群』:病態の本質は"糖尿病性ケトーシス"や"糖尿病性ケトアシドーシス"と呼ばれる疾患を指す。加糖飲料を多量に飲むことでケトーシス・ケトアシドーシスが起こる。
とは言え、これだけの説明では理解しづらいと思うので、"糖尿病性ケトーシス"の詳しい機序については後ほど付け加えます。
詳しくみていきましょう。
「若年者の"ペットボトル症候群"」に対して個人的な典型的イメージ像としては以下の通りです。
・若年者 → 生来健康なことが多いのでちょっとした体調不良では何とかなると思っちゃう
・肥満 → インスリン抵抗性や2型糖尿病のリスクあり
・独居 → 周りの人に相談しない(できない)
・普段から出不精 → 肥満を助長、不摂生になりがち
・ジュースなど甘いものを日常的によく摂っている → 持続的な高血糖状態
そこに下記項目が加わることで発症リスクが上がる印象があります。
・最近風邪気味なのか少し体調が悪い
・食欲が出ないが(出ないからこそ?)、ジュースは飲んでいる
このように「普段からジュースを多量に飲んでいる肥満な方が、体調不良を契機に"ペットボトル症候群"発症する」という感じでしょうか。
もちろんこのイメージ像は絶対的なものではありませんけどね。
"若年"であったり、"それまでは比較的健康(※肥満を除く)"という方が急死するというのは、法医学的にも重大なのです。
詳しい病態をみていきます。
"ペットボトル症候群"には、潜在的な"糖尿病(ないし普段からの高血糖)"が隠れていることも多いです。
『若い方であっても節制していないと糖尿病になる』ということはまず世間一般の共通認識として持っているべきだと私は思います。
その上で、、、
身体は血中の糖分をエネルギー源として利用し活動しています。
その時に働くのがご存じの"インスリン"です。
"インスリン"は組織に作用することで、血中の糖分は組織・細胞内に取り込まれ適切に利用されます。
しかし、このインスリンがうまく働かない状態があります。
その代表例が"糖尿病"ですね。
・インスリン"自体が絶対的に不足(インスリン不足) → "1型糖尿病"
・インスリンの作用不良 (ex.インスリン抵抗性の上昇) → "2型糖尿病"
このような糖尿病などの糖代謝異常が背景にある場合では、前述の「インスリンが組織に作用し、糖分が適切に利用される」ことが不可能になります。
糖尿病であっても身体は活動するためのエネルギーを産生しなければなりません。
そこで身体は「脂肪を分解する」というイレギュラーな方法でエネルギーを作りだそうとします。
ただこの方法ではエネルギーと同時に"ケトン体"という酸性物質も生み出します。
この"ケトン体"も通常は時間とともに処理されていくのですが、処理が追いつかなくなると、この"ケトン体"が体内に溜まってしまいます。
この「ケトン体が体内に溜まった状態」が"ケトーシス"です。
そして、ケトン体は酸性物質なので、溜まり過ぎると身体が酸性になります。(="アシドーシス")
「"ケトーシス"が原因で身体が酸性になってしまう」これを"ケトアシドーシス"と言います。
身体が酸性になってしまうと全身の臓器に様々な悪影響を与え(例えば電解質の異常など)、最悪死に至ってしまうのです。
またこの際、本当はインスリン(ないしその作用)が不足しているのにも関わらず、身体の組織は「体内の糖分が足りていないのだ!」と勘違いしてしまいます。(→本当は血中の糖分は大量に余っているのに...)
その結果、肝臓などで貯めていた糖分も放出し始め、さらに高血糖が助長されてしまいます。
そうして高血糖になると血液は濃くなりますよね。
この時、その濃い血液を薄めるように組織から水分を引っ張る作用が働きます。
そして血液中の水分量は相対的に増えるわけです。
増えた水分は尿として排泄されるため、多尿になります。
多尿になると脱水になりますので、喉が渇きます。
そこでさらに加糖ジュースを飲んでしまうと血糖値がどんどん上がり、、、負のスパイラルになってしまうのです。
"ペットボトル症候群"にならないため、体調不良の際は甘いジュースを多量に飲まず、経口補水液にしてください。
そして、そもそも普段の食事ができないくらいしんどいのであれば、きちんと医療機関を受診してください。
その"体調不良"というのも、もしかしたら高血糖によるものなのかも知れません。(※"ケトアシドーシス"では悪心・嘔吐、腹痛などを来すことも多いです)
それも医療機関で検査をしなければ分かりません。
普段と違うのであれば受診を私は強くおすすめします。
冒頭にも書いたように、"ペットボトル症候群"は比較的若年者にも認められる死因のひとつです。
若年者の解剖自体は法医学でも決して多いわけではありません。
確かにその死因は事故や自殺、病死で言えば"不整脈"がやはり数としては多いです。(死因が"不明"もしばしばあります)
それでも少なくとも私はしばしば「"ペットボトル症候群"による若年者の死」は経験します。
この"ペットボトル症候群"は、きちんとその危険性やリスクを理解し、生活習慣や有事の対応を間違わなければ救える命も多いと感じています。
だからこそ、是非若い皆さんにも"ペットボトル症候群"を知り、理解していただきたいですね。