何故お酒を飲み過ぎると死ぬのか? -慢性飲酒に起因した死因-

「お酒の飲み過ぎは身体に良くない」
「休肝日を作りましょう」

そんな話をよく耳にします。

お酒が大好きな人にとっては耳が痛い話でしょう。

しかし、何故身体に良くないのか?ということに関してはあまり聞きません。

何となく「肝臓に良くないんだろうな」というイメージはあっても、具体的に「何故それが死に至るのか?」については理解できていない人も多いと思います。

今回はそんな『お酒が何故死に繋がるのか?』について解説していこうと思います。


なお、本記事では急性アルコール中毒等は含みません。

飲酒の影響の中でも特に"慢性的なアルコールの影響"について書いていきます。



慢性的な飲酒によって起こる変化のうち、死に繋がる病態は主に以下の3つです。

・肝不全(肝機能障害)
・胸腹水発生による循環血液量の減少(循環不全)
・胃食道静脈瘤破裂

※実際はこれらが複合していることも多々あります。


詳しくみていきましょう。



まず過度な飲酒を続けると【正常肝→脂肪肝→肝硬変】と肝臓がダメージを受けて変化していくことは知っておいて良いと思います。

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この最終段階である"肝硬変"はいわば肝障害の"成れの果て"で、今回のテーマのメインとなります。

解剖時に凹凸でボコボコになったこの肝硬変所見を認めた場合には、必ずアルコールの影響を考えなければなりません。

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※Wikimedia Commonsより



【肝不全】

"肝不全"とは「肝臓自体の機能が低下してしまう」ことです。

肝臓には下記のような機能があります。

①物質の代謝や分解、解毒作用:アンモニアなど
②タンパク質の合成:凝固因子(=止血因子)やアルブミンなど
③胆汁産生

肝不全ではこれらが低下します。


特に1番最初に挙げた代謝・解毒作用低下による死亡(アンモニアを含む体内の老廃物等の代謝が低下してしまい亡くなる)という機序が典型的でしょうか。

肝臓は様々な臓器とも関わっているので、後述する病態も広く含んで"肝不全"と呼ばれることもあります。



【胸腹水の発生による循環不全】

前述②のように、肝臓は"アルブミン"というタンパクも合成しています。

血中アルブミンは、それによって血液を"濃く"することで、周りの組織から血管内へ水分を引き込み留まらせています。

逆に言えば、このアルブミンが少ないと血液が"薄く"なってしまい、血管内の(血液中の)水分が周りの組織へ逃げ出してしまうのです。

当然ですが、水分が抜け出てしまうと血管内の血液量は少なくなってしまいます。

結果として全身を巡る血液が不足し、循環不全(血液不足)によって酸素が満足に供給できず亡くなってしまいます。


この時、お腹の中に逃げだし溜まってしまった水(分)を"腹水"と呼び、胸腔の中に溜まると"胸水"と呼びます。

また「血液量が減る」以外に、胸水が多量に溜まった場合などでは、胸水が肺の呼吸機能を障害してしまい、それが死に繋がる場合もあります。


ただこれらの病態は比較的徐々に進行していくため、この病態が直接の死因となるというよりは他の要因(肝不全や出血など)と合わさって死が引き起こされる印象です。



【胃食道静脈瘤破裂】

こちらはやや機序のベクトルが違います。


肝臓はタンパク質だけではなく、種々の栄養分も合成しています。

そのため、門脈や肝動脈といった血管を通して血液が肝臓に集まってきています。

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ところが"肝硬変"になると、文字通り肝臓が硬くなり、血液が帰って来にくくなってしまいます。

それでも集まろうとする血液が減るわけではありません。

そうやって行き場を失った血流は肝臓以外へ行き先を変えます。

この行き先で多いのが"胃"や"食道"、"脾臓"の静脈です。

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動脈に比べると静脈の壁は薄いです。

そこへ本来肝臓に集まってくる血液が流れてくるわけです。

結果的に胃や食道の静脈は膨れ上がってしまいます。

これが"胃静脈瘤"や"食道静脈瘤"です。(脾臓の場合は"巨脾")


当然静脈瘤が限界を迎えると破裂し、出血が起きます。

ただでさえ普段以上の圧がかかっている上に、肝不全の挙げた②のように、"止血因子"の合成能が低下していることも多く、止まらないこの出血は致死的となります。


この病態は、先ほどの2つに比べ急性に起きます。

そのため、我々法医学者が出会うアルコールに関連した死因の中では割と多いです。



【その他】


その他にも慢性的飲酒の影響にはいろいろあります。


『低栄養(による低体温症)』

お酒ばかり飲んで食事を摂らないと当然痩せてしまい、場合によっては"餓死"や寒い環境では"低体温症"を引き起こします。

またお酒ばかり飲むことでビタミン不足になり、"ウェルニッケ脳症"や"脚気心"などを起こして死に至ることがあります。


『アルコール性心筋症』

直接的な原因ははっきりしていませんが、多量飲酒を長期間続けていると心肥大となり、心不全を引き起こして亡くなってしまいます。


『酩酊による事故』

そして個人的にはこれが最も悪質だと思っています。

酔っぱらってしまうと、転倒したり、注意散漫による事故を起こします。

飲酒運転による事故はその典型例と言えます。

また飲酒後に入浴し溺死してしまうケースもしばしば経験されます。

それだけでなく、酔うと人は何でもしちゃいます。

酩酊した人は何でもありです。

お酒は常習性もありますし、決して酔うほど飲むべきではありません。



以上、今回は"慢性的な飲酒に起因した死因"を取り上げました。

法医学者としての立場から極論を言ってしまうと、、、お酒はあまり飲むべきではありません。

皆さんも飲酒は二十歳になってから...それからも飲酒はほどほどにしてくださいね。