今回は"RT-PCR"という技術について書いていこうと思います。
「あれ...以前書いたんじゃ?」と思った方もいらっしゃると思います。
前回"リアルタイムPCR"について書きました。(参考記事:「リアルタイムPCR」)
この"リアルタイムPCR"と今回の"RT-PCR"は全くの別物です。
「Real Time = RT」と勘違いする学生さんも多いですが、そうではないのです。
この混同を避けるために、"リアルタイムPCR"のことは"qPCR"と呼ぶことの方が多くなってきています。
『RT = reverse transcriptase』です。
"reverse transcriptase"は日本語で"逆転写酵素"と言います。
"転写"とは「DNAからRNAを写し取ること」です。
もっと簡単に言うと、いわば「本から必要な文章だけを抜き出す作業」と似ています。
この転写が"逆"なので、"逆転写"は「RNAからDNAを合成すること」≒「文章から本を書き出すこと」と言えます。
今回は具体的にこの"RT-PCR"ではどのようなことが起きているのか?を書いていきたいと思います。
以前から書いてきた"PCR"は『"DNA"を増幅する技術』でした。
つまり「DNAでなければ増幅できない技術」なのです。
しかし、核酸にはDNAとRNAという2種類があり、一部のウイルスなどでは遺伝情報をDNAではなくRNAとして保持しているものもいます。
例えば「そういったRNAウイルスであったも検出したい!」
そんな時に利用される技術が"RT-PCR"です。
RT-PCRでは、調べたいRNAをPCR可能なDNAへ変換させる必要があります。
それを可能にしてくれるのが"RNA依存性DNAポリメラーゼ"です。
これは"RNAからDNAを生み出す酵素"のことです。
※ちなみに通常のPCRで使用するDNAポリメラーゼは、正確には"DNA依存性DNAポリメラーゼ"と呼びます。(DNAからDNAを生み出す酵素)
RNA依存性DNAポリメラーゼの反応自体は、PCRの時(のDNA依存性DNAポリメラーゼ)と大きな違いはありません。
・目印となるプライマーを目的とするRNAにくっつかせる。
・プライマーを目印にRNA依存性DNAポリメラーゼがDNAを合成していく。
このRT-PCRによって生み出されたDNAを"cDNA"(=complementary DNA)と呼びます。
あとはこのcDNAを鋳型として通常のPCRをかければ良いわけです。(参考記事:「PCR」)
そうして、調べたいRNAと相補的なDNAを増幅させることができるのですね。
このようにRT-PCRによって合成されたcDNAはRNAでこそありませんが、相補的な(RNAを写し取ったもの)DNAなので、配列自体は殆ど元のRNAと一緒です。
その上、DNAはRNAよりも安定しています。(つまりDNAの方が分解されにくい)
またDNA依存性ポリメラーゼは、RNA依存性DNAポリメラーゼよりも正確に合成が進みます。(RNA依存性DNAポリメラーゼの合成にはミスが比較的多い)
そういうこともあるため、この"RT-PCR"ではあくまでcDNAの合成に留まり、その先の反応はDNAによるPCRが主体となっていくのですね。
このRT-PCRの技術は、前回説明したリアルタイムPCR(qPCR)と組み合わせることも可能で、それは"qRT-PCR"と呼ばれます。
昨今話題のコロナウイルスはDNAではなくRNAを持つウイルスですので、この"qRT-PCR"を利用してウイルスの検出が行われます。
なので巷で言われる"PCR検査"とは"qRT-PCR"のことを言っているのだと思います。
以上、"RT-PCR"についてみてきました。
今回までのPCR・リアルタイムPCRと続いて理解できましたか。
DNA・RNAは目には見えませんが、こういった技術を駆使しながら法医学者を含めた世界の研究者は研究を進めているのです。