解剖術式 [Letulle, Virchow, Ghon, Rokitansky]

我々が日々行う"解剖"ですが、その解剖形式には大きく4種類あると言われています。

"ルチュール法 / Letulle法"
"ウィルヒョウ法 / Virchow法"
"ゴーン法 / Ghon法"
"ロキタンスキー法 / Rokitansky法"

この4つです。

ただ実際の解剖では、どれか1つに厳格に準じているわけではなく、それぞれを織り交ぜた術式で行っているところが多いと思います。



ルチュール法 [Letulle]:全臓器を一塊にして取り出した後、体外で個別の臓器で分けて観察・検索する方法。

ウィルヒョウ法 [Virchow]:臓器を1つ1つ個別に取り出して観察・検索する方法。

ゴーン法 [Ghon]:胸部臓器・腹部臓器・骨盤臓器といった解剖学・機能的に関連のある臓器をまとめて取り出し観察・検索する方法。

ロキタンスキー法 [Rokitansky]:臓器を体外に出さず、体内にある状態で観察・検索する方法。


それぞれ詳しくみていきましょう。



【ルチュール法/Letulle法】(=一塊法)

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"Letulle法"はいわゆる"一塊法"です。

全臓器を一塊にして取り出します。

場合によっては、先に腸管だけ取り外し、残りの臓器を一塊にして剖出することもあるようですね。

この方法のメリットは、全臓器を一塊にして一気に取り出すことが可能であるため「解剖時間が短い」ことが挙げられます。

また術後や炎症によって臓器等が癒着している場合でも、その影響をあまり受けることなく剖出を進めることができ、この点も解剖時間の短縮に繋がりますね。

その他、血管の走行などをそのままの関係を保ったまま取り出すことができるというのもメリットです。

ただし、各臓器の重さや所見を観察するため、この形式であっても最終的には臓器を個別に分ける必要はあります。

また一塊で取り出すには助手さんの力が必須になりますので、人手が足りず執刀医1人で解剖を進めなければならない場合にこの手法で解剖するのは厳しいです。


私が臨床医をしていた頃、病理解剖でこの手法で解剖を行っている病理医の先生を1度だけみたことがあります。

しかし、法医学ではあまり主流な術式ではないと思います。


ちなみに日本の教科書の中では、後述の"Rokitansky法"をこの"一塊法"として説明してるものがありますが、それは間違いです。



【ウィルヒョウ法/Virchow法】(=単離法)

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"Virchow法"では、先程の"Letulle法"とは逆に各臓器1つ1つをバラバラに出して行きます。

通常の解剖に加え、一部の臓器だけを狙って解剖する"局所解剖"の際に選択されることがあります。


剖出とともに臓器重量を測定して、そのまま各臓器の個別観察に移れるので、ある意味スムーズな流れです。

解剖の手が多い場合は、各人が手分けして解剖を進めることができます。

各臓器を剖出後、1つ1つの臓器を丁寧に観察できるというメリットもあります。

ただし、血管走行や各臓器との関連を俯瞰して眺めることはできないため、取り出す前に注意深く観察しておかなければばりません。


私は経験がありませんが、もしかするとこの手法で解剖を行っている施設も多くあるのかも知れません。



【ゴーン法/Ghon法】(=ブロック法)

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"Ghon法"では、一塊法のように全臓器をまとめて取り出すまでにはいきませんが、関連臓器をブロック毎にまとめて剖出します。

例えば、心血管系と呼吸器系をまとめて"胸部臓器"として取り出します。

その他、"腹部臓器"や"骨盤内臓器"をブロックとしてまとめて取り出したりします。


"Letulle法"までとはいかないまでも、個別に出す"Virchow法"とは違って、ある程度は関連臓器の間の血管走行や位置関係を保ったまま剖出できます。

手分けして解剖を進めることもできますし、執刀医1人でも何とかできなくもない手法です。

従って『"Letulle法"と"Virchow法"両者のいいとこ取りが"Ghon法"』と言えるかも知れませんね。


教科書的には、この『"Ghon法"で解剖を行っている施設が多い』と言われます。



【ロキタンスキー法/Rokitansky法】(=in situ法)

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この"Rokitansky法"は、臓器を"in situ"(="そのままの位置で"という意)で観察・検索する方法です。

顕微鏡検査用に臓器の一部のみを採取する以外は、基本的に臓器は取り出さずに全て体内で臓器の観察を終えてしまいます。

場合によっては、前述の"Ghon法"を組み合わせて臓器の剖出までを行ったりすることもあるようです。


当然臓器を取り出す必要が殆どないので、手間や時間的なメリットは大きいです。

ただし臓器を出すわけではないので、詳細な観察は難しく、必要最低限な解剖になってしまいかねません。


前述のように、この"Rokitansky法"を"一塊法"として紹介している教科書がありますが、それは誤りです。



以上、今回は4種類の解剖術式を取り上げました。


ちなみに、私のいる法医学教室では『"Ghon法"と"Virchow法"を織り交ぜた"変法"』で解剖を行っています。

おそらく他の法医学教室でも「厳格に4つのどれかを行っている」というよりは「各術式を組み合わせて行っている」という教室が多いと思います。

『これが1番良い!』というよりは、どの術式にもメリット・デメリットはあるので、それを加味しながら「執刀医が最も良い方法を選択している」というのが実際のところでしょう。