法医学者の一日、法医業務の3本柱(解剖・研究・教育)

今回は少し肩の力を抜いて、気軽な記事です。

意外とみえてこない"法医学者の1日"について書いていきたいと思います。



ドラマに出てくる法医学者は解剖しかしていないように見えますが、それ以外にも我々に課された使命というのはあります。

【解剖・研究・教育】です。

私自身が考える"法医学者の3本柱"です。

これを日々念頭に置きながら業務に当たっています。



大体の平均的な1日は以下の通りです。


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こちらが標準的な私の1日のグラフです。


いや...大分かっこつけた1日を挙げました。笑

本当はもっと自堕落な生活かも知れません。

ちなみに臨床医をしていた頃よりはかなり人道的な生活にはなりました。

もちろんあくまで"私の1日"なので、法医学者によっては全く違った1日のリズムを過ごされている先生も多くいらっしゃることをご理解ください。


我々法医学者はやはり"解剖"が最も主軸になると思います。

警察からの依頼にNoとはなかなか言えませんから優先事項は上です。(もちろん最低限融通はしています)

解剖は多ければ1日約2件〜、少なければ0件という日もあります。

大体平均すると『1日1件あるか?ないか?』というところだと思います。


しかし、傷が多く1件の解剖に長く時間が掛かることであれば、冗談ではなく日付が変わる頃まで解剖が続くこともあります。

そうなるとすべての課題が後回しになってしまいます。


そんな解剖がない場合は、ざっくりとその時間を研究に充てている感じですかね。

解剖に関する細かな雑務も多々ありますので、そういった時間に使うことも多いです。

ここらへんは法医学者によってかなり流動的なところだと思います。



"特殊な時期"として定期的に下記のようなシーズンもあります。

・大学生の法医学講義の学期である (→教育)
・警察官(検視官)への研修の時期である (→教育)
・学会シーズンである (→研究)
・論文投稿を進めている時期である (→研究)

上記の時期はそれに充てる時間がメインになってきます。


なので、学生さんへの講義や実習の時期はきちんと学生さんに割く時間がたっぷりあり、決して学生さんをないがしろにしているわけではありませんのでご安心ください。(ご質問はいつでも可です)

"教育"は学生さんだけではなく、『警察官への教育』も含まれているところがポイントですかね。

あとレアケースとして『裁判所へ出廷する』というイベントも稀に発生します。



冒頭に書いた通り、法医学者の3本柱に【解剖・研究・教育】があります。

大学病院の臨床医にも3本柱として【診療・研究・教育】があると言われますが、法医学ではそれが「診療→解剖」に変わっただけです。


もちろん解剖を精力的にされている法医学者もいれば、研究を専門的にばんばんやっている法医学の先生方もいらっしゃいます。

私はどれも勉強したい欲張りさんなのでどっち付かずなのですが...。



私自身は"研究"も積極的にやっていきたいと日々思っています。

と言いますか、まだまだ発展途上な私にとっては解剖だけではなく研究でもきちんと実績を積んでいかなければならない時期ですしね。


世の中はドラマのような"解剖医"に注目しますが、医学・医師の間では必ずしもそれだけで評価されていないような気もします。

やはり「きちんと研究もできていなければならない!」という雰囲気を感じますね。

これは別に法医学者に限った内容ではなく、臨床医の先生方でも同じことが言えると思います。

ただ臨床医のように直接的な命を助ける"診療"ではなく、法医学者は"解剖"であるという点が、法医学者以外に"解剖"がどこか軽視されている気はしています...。

なので法医学者も学会発表や論文投稿を精力的にしているんですよね、「研究もやっているんだぞ!」と。



また"教育"も重要なテーマです。

死因究明制度がまだまだ未熟な日本において法医学教育を疎かにしてしまうことは、更なる状況の悪化に繋がってしまいますからね。

先ほど書いたように、医師・医学生だけでなく警察官への教育もそういった死因究明制度の発展には不可欠です。

我々法医学者だけの知識で終わらせることなく、広く死因究明に関係する人たちに伝えていくことが求められていると私は思っています。

もちろん「後進の育成を!」とも力強く言いたいところですが...そのお話についてはまたいずれ書きたいと思います。


一方で、教えている相手から自分自身が教えてもらうことも多いんですよね。

先入観と言いますか、我々法医学者は当たり前と思ってしまっていることを、純粋な気持ちで質問されてハッとさせられることも実は少なくありません。

我々も日々勉強です。



どうでしょう。

今回の記事で法医学者の生活が垣間見えたでしょうか。

『法医学者は基本的に大学に在籍している』というのが業務にも大きく反映されています。

"解剖をする大学教員"というのが最も的確に表している表現かも知れませんね。